2018 Fiscal Year Research-status Report
子どもを巡る科学的実践と「教育なるもの」の生成に関する思想史研究
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16K17390
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤田 雄飛 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (90580738)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人間諸科学的知 / 教育的価値 / ノルマリザシオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、科学的な知の領域を人々の日常的な実践を含めたものとして想定し、子どもを巡るそうした実践が歴史的にも現在においても知の基盤を構成しているということを理論的に示すことを目的としている。特に、「教育」を自明のものとすることなく、ある社会状況における諸実践や人間諸科学における諸言説の絡まり合いのなかでこそ、教育をめぐる価値が生成してくることを示す必要がある。3年目にあたる本年度は、①思想史を中心とする基礎研究の継続、②教育の現場における人間諸科学的知の絡み合いに関する研究に従事した。 ①フーコー『狂気の歴史』および『思考集成』の関連論考の読解 昨年度の『監獄の誕生』に関する再検討に引き続き、本年度は『狂気の歴史』および同時期の諸論考を中心として精読を行った。こうした『狂気の歴史』や『監獄の誕生』などの諸著作から、狂気や犯罪者の形象とともに、18世紀という時代が医学的思考の対象として子どもを捉えていくと同時に、ノルマリザシオンとして作動する教育が様々な領域においてそれ自体として価値を獲得していく過程でもあることを明らかにするという研究課題を確認した。 ②ラウンドテーブルの実施 教育現場において様々な領域の研究者がどのように子どもの姿を捉えるかについて共同研究を組織し、研究を行った。特に学校現場の観察研究を通して、通常の授業研究・報告では見落とされてしまう「目立たない子」を教師がどのように扱うのかについて、教育哲学、教育方法学、人類学の視点から分析を行っている。その際、子どもの身体的所作に特に注目しているが、規律・訓練的な視点からこぼれ落ちていく側面に特に注目することで、教育実践のなかで子どもの身体が示す多様な姿を描き出すことを試みている。この成果をもとに、九州大学を中心とする教育基礎学研究会の紀要『教育基礎学研究』第16号にラウンドテーブル報告論文「身体から教育を問う」を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理論的な研究についてはフーコーを中心として読解を継続的に進めてきているが、本年度は基礎研究としての文献の読解に終始したこともあり、目的としていた「子どもを巡る知」の生成に関する部分の論証とその論文化を行うことができていない。教育的な価値に関する研究については、昨年度の成果論文のなかで示すことができたと考えられるが、そこに科学的な知が絡み合っていくということについての論証は今年度の課題としていた部分であり、課題として積み残す形となっている。そのためにも、カトリーヌ・ロレの歴史人口動態学に関する研究の整理、小児医学や子どもの発達や健康や身体測定に関する文献や資料の収集・読解が必要であるということ、さらに一次史料の収集が今後の課題となっている。 他方で、子どもの身体的所作を捉えた研究については、本研究の課題を拡張する形で共同研究を組織することが出来た。授業における子どもの身体に関して教育学や人類学の研究者が観察を行い、実践場面でどのように教師が彼らとの身体的で無言のコミュニケーションを行っているかを明らかにしている。同研究は、規律・訓練的な側面を含みつつ、そうした教育的配慮からこぼれ落ちていく側面をすくい上げるような研究と言える。実践領域における子どもの身体に注目する研究については、当初の研究計画の想定を越えて進めてきている部分であり、今後計画そのものを補強するものとなると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、子どもを巡る科学的な諸実践について検討することを課題としてきた。特に子どもの身体を巡る心理学、小児医学、教育学などの諸研究と諸実践は19世紀から20世紀にかけて、発達や成長などを一つの価値として位置づけることに貢献してきたと考えられる。ここまで、以上のことを明らかにするための理論研究を行ってきているが、本年度はこうした知の運動をを実践領域にまで拡大して検討することを目指す。そのためにも、カトリーヌ・ロレが明らかにしている19ー20世紀の子どもの健康を巡る医学的知や国際会議の動向について検討するとともに、小児医学(特にミルク配布所や無料診療所)や幼児教育の実践についての一次史料を収集・検討する予定である。 また、今日、子どもの身体を巡る教育実践がどのような視点から検討される傾向にあるのかを明らかにする研究にも取り組む必要がある。そのためにも、社会科学領域にある教育哲学、教育方法学、人類学などの諸領域が教育実践をどのように捉えるのかを明らかにすることで、本研究の歴史・思想史的な枠組みを検証する作業を行うこととする。
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Causes of Carryover |
当初の計画において想定していた海外での資料収集が行えなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。また、海外の学術雑誌への投稿についても予定しているが、その翻訳チェックなどに係る費用についても、次年度に繰り越している。 次年度では、海外(フランス)での資料調査を行うことで研究成果の補強及び検証を行うと共に、論文にまとめる作業を行う。また、論文の海外雑誌への投稿に際しては、必要経費を支出する予定である。
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