2018 Fiscal Year Research-status Report
通常学校における特別な支援提供枠組の構築―1970~90年代米国の取り組みと課題
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16K17398
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
羽山 裕子 滋賀大学, 教育学部, 講師 (20737192)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DBPM / CBM / Learning Disabilities / early intervention / 学習障害 / 特別支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の主要な研究実績は次の三点である。一点目の実績としては、平成29年度に分析を開始していた、1970年代後半のミネソタ大学で開発された「データに基づくプログラム修正(Databased Program Modification)」について研究論文を執筆し、査読付き学会誌に投稿して受理された。査読結果を受けて修正を行う過程で、「データに基づくプログラム修正」が現在のアメリカや日本の実践に示唆し得ることが何であるかを再考することとなった。その結果、現在のアメリカで普及している学習障害児支援枠組みであるResponse to Interventionの発想に間接的につながっている点、また障害カテゴリー別の措置と教育を乗り越えようとする点で、現在の日米の障害児教育を考える論点を提示してくれる可能性を指摘した。 二点目の実績としては、本研究の対象となるような、通常の学校に在籍する障害児の学習経験について、教育内容の点から分析を行い学会(教育目標・評価学会第29回大会)にて発表した。具体的には、20世紀末よりアメリカの各州で試みられている、学年末の大規模テストへの障害児の参加のための配慮や、その前提にあるカリキュラムの内容について注目し、分析を行った。資料の制限などから、平成30年度に分析し得たのは2000~2010年度のカリキュラムが中心となり、この点において予備的調査の域を出ないものとはなった。しかしながら、この分析を通して、通常の学校で用いられる一般のカリキュラムと障害児向けの代替カリキュラムは、スコープの点では共通しながら、シークエンスの点では単なる履修速度の違いを超えた構成論理の差異がある可能性を見出した。 三点目の実績としては、国内学会にシンポジストとして招聘され、本研究の成果について、実践家、研究者、大学院生を対象に発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はⅰ)学校現場における支援対象児識別に関する理論的基盤を解明すること、ⅱ)校内支援提供枠組の実態解明、ⅲ)学術的議論の到達点の再吟味、ⅳ)研究成果の相対化による、本研究の独自性の明確化の四点に取り組むことを計画している。 平成30年度はⅰ)およびⅱ)に関する論文(査読付き)を一本発表した。また、ⅱ)に関する学会自由研究発表を一本、ⅲ)およびⅳ)に関する学会シンポジウム発表を一本行った。加えて、一種のアウトリーチ活動として、本研究の成果を生かしながら国内の実践家向けに解説記事を執筆した(ただし、この解説記事は年度内に発行はされていないため、業績リストには掲載していない)。以上の点より、研究1年目、2年目に所属機関異動の影響で生じた遅れのうち、研究発表に関しては、3年目である2018年度に取り戻すことができたと考える。 一方で、海外調査の実施については、平成30年度は夏期および春期の授業外期間に複数の社会貢献活動(教員免許の取得や更新に関する講習、研修会など)を行うよう求められたため、長期の出張が不可能となり、延期せざるを得なかった。このことにより、ⅰ)およびⅱ)について希望する資料のすべてを収集することができていない。この点からは、研究計画申請時の3か年による研究完遂は果たせていないと判断せざるを得ない。以上をふまえて、平成30年度単年度の研究成果としては当初計画を超える十分な成果を得ているが、研究完成年度としての総括は「やや遅れている」とした。 この状況をふまえて、予算残額で研究期間の一年延長を計画し、「今後の研究の推進方策」に述べるような計画で完遂を目指したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の状況をふまえて、平成31年度に研究期間を延長することによって達成する予定の研究内容は以下の通りである。まず資料収集については、当初の予定通りにアメリカ合衆国への資料収集出張を実現することを最優先に考える。その際、研究期間の延長が今年度いっぱいであるため、複数回の海外出張は困難であると考えられる。そこで、当初予定していた、複数州での予備的・網羅的な資料収集計画を改め、中西部など近隣の州に研究対象地域や研究対象大学が固まっている地域で、比較可能な資料を収集することを目指す。なお、どうしても海外出張が叶わない場合は、所属大学あるいは国立国会図書館を通して、複写物の収集を行うことも想定する。この場合、事前の予想を超える資料を現地で新たに発見することができない点、マイクロフィッシュ資料の収集が困難になるため、収集可能資料の幅が狭まる(ⅱ)に関する資料の収集に限界がある)点にデメリットが予想される。一方で、事前に対象機関の所蔵物を十分に調査しておけば、紙媒体で保存されている報告書類などは収集可能であるため、ⅰ)やⅲ)に関する資料はある程度入手できると考える。なお、国内からの取り寄せを行う場合、到着までの期間が相当にかかることが予想されるため、この判断は夏期休暇期間の前に行う必要があると考える。 次に、ⅳ)については、既に対象となるような学術論文を収集しており、分析を開始している。研究計画ではⅰ)~ⅲ)がある程度達成された上で、総括としてⅳ)に至る予定であったが、ⅳ)に取り組む中でⅰ)~ⅲ)の分析枠組みが明確化することも考えられるため、ⅳ)の資料分析と考察をこのまま先行して進めていきたい。これにより、海外資料収集の遅れで研究を停滞させることなく、残りの研究期間を有効に利用することが可能になると考える。
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Causes of Carryover |
平成30年度に交付された研究費の一部が、以下の二点の理由により次年度に繰り越された。一点目は、アメリカ合衆国への資料収集出張が、校務の事情により実行できなかったためである。これにより、海外出張旅費予定分の大半が次年度使用分に移された。なお、平成29年度以前は、海外出張の延期に伴い旅費予定分をほぼ全額次年度に繰り越していたが、平成30年度においては、研究成果の中間発表のため、学会参加出張(和光大学)を行ったほか、公開研究集会への参加(信州大学附属特別支援学校)や関連資料所蔵大学への出張(宮城教育大学。ただし学会出張と同時に実施)を実施したため、国内旅費予定分は執行した。よって、海外旅費予定分のみ次年度使用とした。 二点目は、予定していたノートパソコン購入について、前使用機の登録取り消し手続き等が予想外に難航したため、新機の購入が延期された。よって消耗品購入費の一部が次年度使用となった。 平成30年度執行予定の研究費のうち平成31年度の使用に移した金額については、以下のように執行していく計画である。平成30年度の海外旅費予定分は、平成31年度実施予定のアメリカ合衆国における資料収集費用とする。ただし、「今後の研究の推進方策」に述べたように国内機関を通した収集に切り替えた場合は、郵送費および国内出張旅費へと切り替える。平成30年度の消耗品費予定分については、平成31年度の同費目とする。
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