2019 Fiscal Year Research-status Report
大正新教育におけるカリキュラム改革の史的再検討―成城小学校を中心に―
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16K17400
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Research Institution | Asahi University |
Principal Investigator |
足立 淳 朝日大学, その他部局等, 准教授 (50707528)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大正新教育 / 成城小学校 / カリキュラム改革 / 「学習の個別化」 / 「生活の社会化」 |
Outline of Annual Research Achievements |
採択された研究計画に沿って収集した史資料の分析と考察を進めた結果、1930年代成城小学校におけるカリキュラム改革の基本方針とその展開について、以下の諸点が明らかになった。 創設者である沢柳政太郎が1927年12月に死去した後もしばらくは、成城小の研究と実践に基本方針であった「自学主義」の枠組に変更や転換は見られなかった。だが、1930年代に入ると、成城学園の組織体制の変更を背景に、「学習の個別化」に傾斜した従来の基本方針への反省や批判が教師たち自身によってなされ、新たな展開が企てられるようになる。それは、「生活の社会化」を掲げ、従来からの個別学習のみならず、「一斉学習」や「環境に即する学習」「作業学習」といった学習形式を総合した「成城学習」を実現しようとするものであった。そして、成城小の教師たちは、それら「成城学習」の構成要素を、マルクス主義や郷土教育、労作教育といった当時の教育界における諸動向に影響を受けて構想していった。 以上のことから、これまで先行研究において提起されてきた、沢柳没後の成城小のカリキュラム改革の動向を「閉塞」や「変質」の過程であったと捉える視角にも、「成城本来の精神」に立つ「自学組織の充実」の過程であったとする評価にも、ともに再検討の余地が残されていることが判明した。それは、むしろ、「学習の個別化」から「生活の社会化」へという基本方針の展開と、それに沿ったカリキュラム改革の動向だったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採択された研究計画において示した作業仮説は、1930年代の成城小学校におけるカリキュラム改革が、教育内容面においては教科課程の社会化を、教育法方面においては個別学習と協同学習との調和を志向していたのではないかというものであった。そして、その背景にはウィネトカ・プランや郷土教育の研究、学校劇の再評価などがあったのではないかと考えていた。 こうした作業仮説に沿って検証を進めたきた結果、成城小におけるカリキュラム改革の基本方針が、1930年代に入って「学習の個別化」から「生活の社会化」へと展開していったこと、さらに、それを具現化するものとして様々な学習形式を総合した「成城学習」が構想されていったことが明らかになった。 このことから、当初の作業仮説は概ね妥当であったことが確認された。ただし、上述したカリキュラム改革の展開において、同時代の教育界におけるマルクス主義の台頭や労作教育の動向などが重要な影響を与えていたことが、職員会議資料をはじめとする成城小内部の史資料、教師たちの言説や教育実践記録、教育界の諸動向などの分析と検討から解明された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、成城小学校の教師たちが「生活の社会化」を自らの研究や実践においていかに具現化しようとしたのかを実証的に解明していく必要がある。また、彼らの取組が、いかなるズレや差異、矛盾を相互に含みながら、しかも成城小全体としてのカリキュラム改革の地平を拓いていったのかを構造的に描き出す必要がある。その際、次の二つの点に留意して再検討を進めることが重要である。 一つは、成城小のカリキュラム改革の固有の文脈を明らかにすることである。1930年代の研究と実践は、同時代の教育界の諸動向から影響を受けつつ展開された。しかし、成城小の教師たちは、それらに安易に追随したわけではなかったと見られる。むしろ、彼ら一人一人が、それらを、成城学園が有する教育資源や諸条件を前提としながら研究と実践のなかにどのように位置づけていったのかを解明しなければならない。 二つは、上記の点とも密接に関わるが、成城小におけるカリキュラム改革の到達点と限界性について、同校の教師たちの研究と実践、それら自体にいかなる価値や矛盾が含まれていたのかを問うことを通じて再考することである。 これらの作業は、沢柳政太郎という教育界に絶大な影響力を有していた指導者を失った教師たちが、その後の時代の課題や要請をいかに理解し、対応しようとしたのか、その軌跡を辿ることである。これまで見落とされてきた大正新教育の遺産の所在を明らかにすることにも資するであろう。
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Causes of Carryover |
2020年8月にスウェーデンのオレブルー大学で開催される予定の国際教育史学会において、日本の教育史研究の動向に関するラウンドテーブルに参加し、20世紀初頭の新教育に関する最近の研究動向について報告する機会を得た。ここで報告し、参加者と議論した知見や議論を踏まえて採択された計画に基づく研究の成果をまとめたいと考えるに至った。そのため、次年度に旅費および報告書の刊行のための予算の執行を延ばしたい。
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