2016 Fiscal Year Research-status Report
米国のエビデンス市場における知の循環を支えるガバナンスの全体像
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16K17403
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Research Institution | Kobe Tokiwa University |
Principal Investigator |
桐村 豪文 神戸常盤大学, 教育学部こども教育学科, 講師 (00637613)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エビデンス論 / メタ・ガバナンス / エビデンス市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究は、米国を中心に教育界を席巻するエビデンス市場の実態を、それが成立していない日本との対比の観点も含めながら、明らかにすることを目的としている。 1年目では、以下の2つの研究課題に取り組んだ。 まずエビデンス市場を成り立たせる基本原理を探ることから着手した。我が国においても、中室牧子の著書『「学力」の経済学』のベストセラー現象があったように、また第3期教育振興基本計画案の中で「エビデンスに基づくPDCAサイクルの確立をさらに進めていくこと」が謳われているように、わが国においてもエビデンス市場の成立を期待する流れがある。しかしながら、その成立の根底にある基本原理を知らなければ、実現可能性をもってエビデンス市場の成立を期待することはできない。そこで、米国の教育界でエビデンス政策が導入され、展開されてきた経緯を丁寧に探り、またその政策の導入・展開の中で明示された言語をもとに、そこに伏在する基本原理を探ることを試みた。 また、エビデンス論を「エビデンス市場」に現実に移行させていくとき、ガバナンス論の観点から再考する必要がある。それは、研究者が教育ガバナンスの中に占めるべき位置を探ることでもある。例えば中室が提起するエビデンス論は、その前にも後にも現場に生きるローカルノレッジとの対話の余地はなく、上から目線の啓蒙者に坐してしまっている。そこで、上から目線の啓蒙者に坐してしまずに、ローカルノレッジとの対話の余地を残したエビデンス論を展開するため、メタ・ガバナンスに研究者の位置を見出すべく、進化生物学の知見を借りながら論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目は、2つの研究課題に着手した。 (1)米国の教育界を席巻するエビデンス市場の根底にある基本原理の探求 (2)エビデンス論をエビデンス市場として実現させるために求められるガバナンス論の展開 このうち、2つ目は紀要で発表するに至ったが、1つ目は日本教育社会学会の投稿論文で発表するに至らなかったため、これについては2年目に何らかの媒体で発表する努力をしなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、以下の3つの研究課題に着手する予定である。 (1)米国の教育界を席巻するエビデンス市場の一端を担うアクター(教育プログラムの供給者や、それを活用する学校、また仲介する米国連邦政府など)に対してインタビュー調査を実施し、エビデンス市場の実態を明らかにする。 (2)米国の教育界を席巻するエビデンス市場の一端を担うアクター間の関係性を網羅的に明らかにし、そのネットワークを図示することを通して、米国におけるエビデンス市場の様子を可視化する試みを行う。 (3)わが国において、エビデンス市場を成立せしめる可能性を探求するため、フリースクールや適応指導教室に対して調査を実施する。 なお(3)の研究課題は研究計画を変更したものであるが、それは(1)(2)の研究課題をさらに発展させた課題であり、わが国の教育界においてエビデンス市場の導入の可能性を探求するためのものである。その実施においては、すでに学校教員の協力を得ているため、即座に実行可能な体制を整えている。
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Causes of Carryover |
1年目は、学内の教学マネジメント改革の実務に追われ、米国調査が実施できなかった。 代わりに、文献調査を中心に可能な研究を遂行した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目は、本来1年目に実施すべきだった米国調査も含め、調査を行うことで、計画通りに研究を遂行する予定である。
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