2016 Fiscal Year Research-status Report
1930年代における家庭教育振興政策の展開と障害児の母親の戦争動員に関する研究
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16K17406
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Research Institution | Seitoku University |
Principal Investigator |
奥村 典子 聖徳大学, 児童学部, 准教授 (90648669)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 障害児教育史 / 聾教育 / 家庭教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①体制側が障害児の母親に要求した家庭教育の内実に関する研究を行うとともに、②体制側の動きに連動した教育関係者の言説(家庭教育の意義づけや提言等)を検討した。 ①に関しては、主として聾教育に焦点を当て、1930年代の聾教育の振興を目的とした文部省の動きや審議内容等に関する資料の分析を進めている。1930年代前半においては、聾児の自営自活の途を開くというねらいのもと、聾学校での教育課題が手話法の定着から口話法を定着させることへと内容的に変化したことが示された。それにともない、家庭は学校との連絡を密にし、家庭での教育課題も、聾児が学校で習得した口話法を確実に身につける教育の実践が要求されていたことが明らかとなった。現在、日中戦争勃発以降の「教学刷新」の流れのなかでの体制側の動きに関する資料の収集と分析を同時進行で行っているが、1930年代前半期と比較して、少なくとも国家が提示する皇国民を育成する基盤としての「家庭」像へと聾児の家庭も取り込まれ、一層の学校と家庭の繋がりの強化が求められていたことが明らかにされた。 ②に関しては、文部省関係者が理事に名を連ねていた聾教育振興会の機関誌『口話式聾教育』の記事を分析することにより、聾教育関係者は子どもの教育への理解と協力を家庭のみならず地域社会に求めたこと、特に母親に対しては学校での教育方針を理解し、その方針に沿った教育を家庭で施すことが強く求められていたことが明らかにされた。また、教育関係者が推奨する家庭での教育のあり方を母親たちに指導する機会として、文部省後援の家庭教育講習会や座談会等が年に数回開催されていたことも確認された。その結果、当該時期における聾児の母親に求められた家庭教育の概要を把握することができた。本研究成果の一部については、関東学園ヴェルボトナル言語教育研究所研究例会(2017年1月8日)において口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となる平成28年度は、研究実施計画の段階で予定していた資料調査を行なうことができ、資料の閲覧・収集作業もおおむね計画通りに進行している。 収集した資料の整理・分析には時間を要するため、得られた成果をまとめて学会等で発表するまでには至っていないが、当初より本年度はおもに資料の収集と分析に注力する計画であったため、研究はおおむね計画通り順調に進展しているといえる。 資料の収集・分析の結果として、母親を対象とした各種講座の実施状況についていくつかの知見がすでに得られており、次年度以降に進める研究実施計画へのスムーズな接続が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成29年度は、1930年代に盲・聾唖児の母親および盲・聾唖学校の現職教員を対象に開設された文部省主催あるいは後援の家庭教育に関する講習会に着目し、実施方法や講義科目、講師、参加者に関する確認作業を行うことで、具体的な講義内容と参加者に与えた影響について検討する。予想される資料は、盲・聾唖教育関係の新聞・雑誌、一般新聞、『文部時報』『内務時報』や開設校が所蔵する記録、参加者による記録等であり、それらを収集・分析することで進める予定である。 こうした研究の推進により、体制側が要求する障害児の家庭教育のあり方がどのようなかたちで母親や教員たちに共有されるとともに各家庭に普及したのか、また家庭教育のあり方がどのように評価されていたのかといった点についての知見を得る予定である。また、研究の経過や成果については関連学会、研究会にて発表し、諸氏の批判を得ることで、さらなる応用展開につなげることとする。
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Causes of Carryover |
本研究課題の調査にて収集した資料のデジタル化・管理・分析に必要なデジタルカメラおよびAO機器を購入する予定であったが、紙媒体の資料の収集・整理に時間を要したため未購入であることが主たる理由である。 また、調査時にアルバイトを雇い、補助作業を委託する予定であったが、予定していたアルバイト学生の所属先が異動となり、作業はすべて研究代表者が行なったことも次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度早期に収集した資料のデジタル化・管理・分析に必要なデジタルカメラおよびAO機器を購入する。残りの次年度使用額は、関係図書の購入および資料調査(旅費)に振り分ける。
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