2018 Fiscal Year Research-status Report
手書き文字の字形と学習者の主体性に関する研究-大正期から昭和初期を中心として
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16K17437
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
清水 文博 新潟大学, 人文社会科学系, 講師 (40747953)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 楷書 / 仮名 / 古筆 / 高塚竹堂 / 康煕字典体 / 書写体 / 筆写体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昭和初期における手書き文字の規範と教科書体の平仮名、片仮名、漢字の字形を提示しながら両者がどのように影響を与えあっていたかについて検討した。手書き文字の規範と教科書体は、1933年使用開始の第四期国定国語教科書から大きく字形が変化している。検討にあたっては、その前後、国定第三期から第五期教科書の毛筆文字や硬筆文字を教科書体とおおよそ同じ大きさに縮小した図版を示した。 平仮名については、図書監修官のほか、書家の高塚竹堂が関わり平安期の字形を取り入れた教科書体が作成されていた。高塚が文部省の習字講習会で使用した資料と教科書体の参考古筆とは、ほぼ同一であることに着目し、字形について検討した。なお、文部省の習字講習会については、これまで全体像が知られていなかった。平仮名字形の検討とは別立てで国定第四期教科書対応の講習会と絡めた考察を行った。 漢字については、三期から五期の尋常小学校(国民学校初等科)の新出漢字と楷書の手書き文字規範を集字し、同一漢字の比較ができるようにした。漢字は仮名に比べて文字数が多く、本年度はこの作成に多くの労力を費やした。作成した「手書き文字規範と漢字教科書体:国定第三~第五期」は、一部を学会発表にて配布し、多くの示唆を受けた。また、国定教科書における教科書体およびいわゆる書写体等の字形訂正についても検討した。編纂趣意書に記されない教科書の字形訂正についてはこれまで着目されてこなかったことである。このいわば非公式な字形訂正を追うと、第四期では字源重視の教科書体の字形導入にともなって教育現場で混乱があったことや、書方ではこの書きにくい教科書体を補おうとするかのように書写体が導入されたが、極端に教科書体と異なるものは訂正されていたことがわかった。字形の訂正からは教科書体の規範性の高さが改めて認識されたものといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は国定第三期から第五期までの手書き文字規範および教科書体を集字し、おおよその文字分析は行うことができため、計画は順調に進展したと考えている。特に漢字の字形分析の過程では、字形訂正についてなど多くの知見を得ることができたと考えている。ただし国定第四期で片仮名の教科書体がどのような理念で作成されたのかなど新たな課題も多く見つかった。また、字形論文の執筆と平行して、全国でおびただしく開催された書道講習会や、文部省の習字講習会についても考察でき、国定教科書の字形がどのように普及したのかについての一端を示すことができた。これは前年度に行った書方コンクールや展覧会と一体のものとしてとらえるべきものであり、過去の手書き文字の字形の学びがどのようなものであったを検討する際の基盤をなすものの一つとして提示できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は研究の最終年度となり、文字の学びやすさなど学習者の主体性に関わる研究を進める。大正期から昭和初期、書方、習字教育研究の中心にいたといえる水戸部寅松や、各務虎雄、石橋犀水をはじめとして、教育研究者が字形と学習者の主体性についてどのように考えていたのかについて検討したい。検討にあたっては、実際に児童が使用していた当時のノートや半紙綴りなどを確かめ、書方、習字教科書の教科書書風や教科書体が学習者にどう影響を与えたのかについて並行して考察を行う予定である。新教育運動等の教育界の動きや社会情勢を参照するなどして、これまでの成果を総合的にまとめたいと考えている。
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Research Products
(5 results)