2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17451
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
杉田 浩崇 愛媛大学, 教育学部, 講師 (10633935)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 知的な徳 / 徳認識論 / 開かれた心 / 知的な謙虚さ / 学校教育活動全体を通じた道徳教育 / ロバート・ブランダム |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、知的な徳(intellectual virtue)に関する文献を収集・整理するとともに、学校教育での援用を図っているJason Baehrが作成した実践的なガイドCultivating Good Minds: A Philosophical and Practical Guide to Educating for Intellectual Virtuesと、Baehrら哲学者と教育学者が執筆している論文集Intellectual Virtues and Educationを精読した。開かれた心や知的な謙虚さがどのような特徴を持っているのかを哲学的に明らかにするとともに、学校教育活動全体を通じた道徳教育のカリキュラム案を作成するなど実践研究に着手したところである。 また、他者の「証言(testimony)」が知識共有に重要性を果たすという知識獲得の社会的側面を検討した。Miranda Frickerの「証言に関わる不当さ(testimonial injustice)」に関する議論を援用することで、互いの意見に真剣に耳を傾け合いながら会話することの意義を確認した。これにより、教師が教室を知的に安全で支持的な空間にすること、そのために相互行為的な教育方法を教科学習で取り入れることが重要であるとの示唆を得た。 以上の成果は、11th Asia-Pacific Network of Moral Educationにて口頭発表された。 さらに、ロバート・ブランダムの議論を教育学の立場から検討し、条件文を用いて行為理由を明示化していく過程において、自分自身がコミットしている考えや立場が明確になり、自己形成がなされていくことを明らかにした。論理的に物事を考えることが、他の可能性に目を向けたり、他者の意見に耳を傾けたりする機能を果たすという語用論的な洞察は、知的な探究それ自体に含まれた道徳的な側面を考えるときに有効な示唆を与えてくれることがわかった。その成果は愛媛大学教育学部紀要にて発表された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は、知識獲得および知識伝達・共有の局面に着目して、徳認識論における応答責任主義が教育をどのように描き出しているのかを明らかにすることであった。この点について、Jason Baehrを中心として、教育への応用をめぐる諸議論を整理し、①開かれた心や知的な謙虚さが他者考慮的な仕方で適用されるときに道徳的な側面を認めうること、また②他者の証言(testimony)が知識共有に重要性を果たすという知識獲得の社会的側面を考慮したとき、教室内に安全で支持的な雰囲気をつくりだすことが実践的に重要であること、を明らかにし、Asia-Pacific Network of Moral Educationで口頭発表できた。今後は、それらを論文等にまとめていく作業が必要である。また、Baehrの実践的なガイドの精読やお茶の水女子大学附属小学校の「てつがく」の実践視察を通じて、実践的な研究を行うための視座を得、附属小学校の教員と協力体制を築くことができた。これについては、次年度に計画的な遂行を行うことで、発展させていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
知識獲得および知識伝達・共有について、徳認識論における応答責任主義が教育をどのように論じているかについて、より詳細な検討を行う。具体的には、①「証言(testimony)」と自律的思考の関係をめぐるLinda Zagzebskiの議論を中心に、これまで教育目的とされてきた「自律的思考」のあり方をめぐって検討を進めたい。また、初年度の成果を論文等の成果物へ繋げていく。 また、実践的な研究については評価方法や「道徳の時間/道徳科」との接続について学校教員との意見交換を継続・深化していく。加えて、先駆的な実践事例(カリフォルニア州のIntellectual Virtue Academy)の視察に行くことで、知的な徳の育成に基づくカリキュラムの構想を膨らませる。 さらに、道徳的判断における知的な探究の果たす役割について、道徳哲学における議論を詳細に検討したい。それにより、学校教育活動全体を通じた道徳教育の新たな可能性を示す。
|
Causes of Carryover |
研究当初はイギリスの教育哲学会にて発表予定であった。しかし、知的な徳の育成を道徳教育の拡張という文脈で論じる場合、道徳教育が教科として行われることの多いアジア圏での発表が望ましいと判断した。Asia-Pacific Network of Moral Educationの学会開催が2017年4月のため、当初必要と見込んでいた旅費が少なかった。他方、Baehrを中心として、徳認識論を教育実践で論じる著書等の出版が続き、関連する書籍購入等で物品費が当初見込みより多くかかった。旅費の減少と物品費の増加の結果、次年度使用額がわずかに発生した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
Asia-Pacific Network of Moral Education(4月)で発表するための旅費の一部に充てる予定である。
|
Research Products
(1 results)