2016 Fiscal Year Research-status Report
共に学ぶ場における発達障害児と典型発達児の他者・自己理解を促進する心理教育的支援
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16K17465
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Research Institution | National Institute of Special Needs Education |
Principal Investigator |
李 煕馥 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, インクルーシブ教育システム推進センター, 研究員 (40708385)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 他者理解 / 自己理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
H26年の障害者権利条約への批准により、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築がより一層重要な課題となっている。インクルーシブ教育システムとは、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり(中央教育審議会初等中等教育分科会、2012)、共に学ぶことによってすべての子どもにもたらされる良い効果の一つとして、お互いを理解し合う他者理解や自己理解の発達が期待できる。 本研究では、4年間にかけて①共に学ぶ場においてASD児とTD児の他者・自己理解がどのように発達するかについて明らかにすること、②ASD児とTD児の他者・自己理解の発達を促進させるための支援プログラムについて検討すること、を目的としている。 本年度はまず、ASD児における他者との関係性に注目し、相手との関係性がASD児の遂行能力、広くは発達に影響を与えるかについて分析したものをまとめた。先行研究(平成25年~平成27年度の特別研究員奨励費による研究)から得られたデータのうち、大人のかかわり方によるASD児の課題遂行反応の変化を見出し、ASD児においても相手との関係性の形成が重要であることを示した。これは、上記の①の目的につながるものである。 ②の目的に関しては、親とASD児が一緒に振り返る共同構成の様子とASD児の他者理解の発達との関連について分析した結果、大人との共同構成がASD児の他者理解の発達においてよい影響を与えている可能性を示した。この結果は、ASD児の他者理解や自己理解の促進に共同構成が有効である可能性を示唆したと考えられる。これらの分析結果は、学術誌への投稿原稿としてまとめた。 次年度からは、上記の先行研究から見出された仮説を直接検証していく必要があり、ASD児とTD児との関係性の中から両児の他者・自己理解の特性や発達について明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現在の進捗状況は、遅れていると判断する。 その理由としては、本年度は自分の先行研究から得られたデータ分析結果から本研究へつなげるための知見を整理したことに止まってしまったためである。先行研究から得られた知見は、本研究につながる仮説を示したものであり、その仮説を検証していくためには、新たなデータを収集することが求められる。しかし、本年度はデータ収集ができなかったため、進捗状況が遅れることになった。 本年度は新しい職場に着任したこともあり、研究協力いただく対象や機関の選定に困難さが生じた。次年度は、早めにデータ収集を行えるように準備していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる次年度は、共に学ぶ場におけるASD児とTD児の他者理解と自己理解の特性について明らかにするための調査を行う。対象はASD児とTD児がともに学ぶことを推進している幼稚園あるいは小学校に在籍しているASD児とTD児とし、他者理解や自己理解をとらえる課題あるいは質問を行うとともに、日常の様子の行動観察を行う。 質問調査や日常の行動観察を通して、より自然な場面でASD児とTD児の他者理解や自己理解を促進させるための支援方法について見出していき、3年目の実践研究につなげる。 さらに、当初の計画通り、文化差による他者理解や自己理解の発達について検討することを目的に、韓国との比較研究を予定している。次年度は韓国の教育現場に訪問し、韓国のASD児とTD児の他者理解や自己理解の特性について調査し、比較検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、新しい職場に着任した年でもあり、研究協力いただく対象や機関の選定等で困難さがあった。そのため、研究進捗が遅れており、これが原因で当初の予算を執行することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、今年度の調査が遅れている分を取り戻せるように、調査をしっかり行う予定である。①【旅費】ASD児とTD児がともに学ぶ場におけるASD児とTD児の他者理解と自己理解の特性を調査するため、定期的に研究協力機関を訪問する。また、韓国との比較研究を行うために、韓国の教育現場を訪問し、データを収集する。さらに、学会等に参加し、成果発表や情報収集を行う。 ②【物品費や人件費・謝金】次年度に収集する予定のデータを整理し、分析するための人件費や謝金の支払い、さらに分析に必要な物品等の購入を予定している。
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