2016 Fiscal Year Research-status Report
高性能チップスケール原子デバイスを実現するガスセル作製法の新展開
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16K17502
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平井 義和 京都大学, 工学研究科, 助教 (40452271)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マイクロ・ナノデバイス / MEMS / 先端機能デバイス / 計測工学 / 応用光学・量子光工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子・原子レベルの物理現象を使った新しいナノ・マイクロデバイスの1つとしてチップスケール原子デバイス(超小型の原子時計や原子磁気センサ)が注目されている。デバイスの小型化・高感度化に向けてMEMS加工技術をベースに欧米を中心に活発な研究開発が進んでいる。特にデバイスの心臓部であるMEMS型ガスセルでは高性能化に向けた新しい作製法の必要性が高くなっている。MEMS型ガスセルは、一般的にガラスとシリコンの陽極接合で作製したキャビティ(容器)にアルカリ金属とバッファガスを封入して作製する。本研究では従来のMEMS型ガスセルの作製法では達成することが難しかったガスセル内に低温でアルカリ金属ガスを効率的に生成するシリコン製のアルカリ金属生成源(AMST)、およびそれを用いた高性能なMEMS型ガスセルをウェハレベル加工する新しい作製方法を開発することを目標としている。 平成28年度の研究実績として、多孔質アルミナ製AMSTを用いたMEMS型ガスセル作製法を確立した。AMSTはシリコンや多孔質のアルミナ基板上にアルカリ金属生成試薬であるアルカリ金属アジ化物を析出したものである。具体的には多孔質アルミナの細孔径に依存したアルカリ金属アジ化物の分解反応を最適化した。その結果、多孔質アルミナの三次元微細構造を活用すれば、従来のアルカリ金属アジ化物を用いたMEMS型ガスセルの作製法よりも低温かつ短時間で効率的にセシウムをガスセル内に封入できた。さらに多孔質アルミナ製AMSTを使って作製したMEMS型セシウムガスセルは、先行研究のMEMS型ガスセルと比較すると同等か、それ以上の性能を達成できることを実証した。この結果から本研究の最終目標であるシリコン製AMSTでも、高性能なMEMS型ガスセルが作製可能になることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はシリコン製AMSTの開発に向けての基礎検討とMEMS型ガスセル用の低温・高真空気密封止技術について検討し、研究目標の達成に向けての作製プロセスの開発を進めた。特にシリコン製AMSTの開発では、シリコンの三次元微細構造の形状をシリコン深堀加工(D-RIE)のプロセス条件を工夫することでアルカリ金属アジ化物の分解効率を向上させる方法について重点的に検討した。またガスセルの長期安定度を考察するために、MEMS型ガスセル内の残留ガス分析を行う評価装置を構築した。 1)シリコン製AMSTの開発:高性能化のキーテクノロジーとしてアルカリ金属アジ化物をシリコンの三次元微細構造体に析出させたのち、約300℃で熱分解してセシウムをガスセルに封入する新しいセシウム生成法の開発に着手した。形状の異なるシリコンの三次元微細構造を作製することでアルカリ金属アジ化物との接触面積(比表面積)を制御し、従来型の平坦なシリコン基板と比較して高効率にアルカリ金属アジ化物を熱分解する方法について実験を行った。 2)低温・高真空気密封止技術:MEMS型セシウムガスセルの高性能化を達成するために、①シリコン-ガラス接合界面からのリークによるバッファガス圧の変動、②従来のMEMS型ガスセルで使われてきた陽極接合のように高い接合温度(400℃)が原因でガスセル内に発生した脱ガス起因するセシウムの経時変化、について酸素プラズマと窒素プラズマの表面活性化処理を組み合わせた低温・高真空気密封止技術(ハイブリッド接合)で解決した。また従来の陽極接合を用いて約400℃の接合温度でAMSTをガスセルに封止すると、接合プロセスの途中でアルカリ金属アジ化物が分解する。しかしハイブリッド接合を適用することで、接合温度約350℃でAMSTを封止できるためこの問題も解決できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に検討した2つの要素技術を融合したMEMS型ガスセルの試作、およびガスセル感度とその長期安定度を計測・評価して作製法にフィードバックしながら、目標達成と提案手法の優位性を実証する。合わせてシリコン製AMSTにおける三次元微細構造に依存したアルカリ金属アジ化物の分解反応についても、引き続き考察を進めていく。 3)MEMS型ガスセル作製法の確立:シリコン製AMSTを応用したセシウム生成法と低温・高真空気密封止を融合したMEMS型ガスセルのウェハレベル作製法を確立する。ここでは以下の通りの作製プロセスの確立を目標とする。①アルカリ金属アジ化物を担持するためのシリコンの三次元微細構造を準備、②光学チャンバとアルカリ金属ガスを生成するためのチャンバを有するキャビティ構造、およびそれらを連結するマイクロ流路をD-RIEで形成して陽極接合、③アルカリ金属アジ化物を水溶液にして、シリコンの三次元微細構造に析出、④接合装置内にサンプルをセットして、ハイブリッド接合技術でガスセルを封止、⑤アルカリ金属アジ化物を約300℃で熱分解してセシウムとバッファガスである窒素を同時に生成し、MEMS型セシウムガスセルとして完成。 4)MEMS型ガスセルの性能評価:ウェハレベルで作製したMEMS型ガスセルの光学特性や周波数特性を計測して性能を評価する。具体的には多孔質アルミナ製AMSTとシリコン製AMSTのそれぞれで作製したMEMS型ガスセルの性能の比較・評価、およびエージングレートを評価項目として研究を進める。これらの評価結果は逐次、前述したガスセル作製法にフィードバックして、目標を達成することでチップスケール原子デバイスの新展開への目途を立てる。
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Causes of Carryover |
当初、約20万円の解析用PCを調達する予定であったが他の助成金でより高いスペックの解析PCを調達したため、当該助成金での購入を見送った。また旅費の節約などによって当初請求した助成金との乖離が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究の進捗がおおむね良好であったため、既に次年度開催の国際学会に2件が採択決定済みである。そのため国際学会への参加費・旅費へ充当する予定である。
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Research Products
(4 results)