2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17504
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伴野 太祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (70613909)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自己駆動油滴 / 非平衡系 / カチオン性界面活性剤 / ベンズアルデヒド / アゾベンゼン / 分子間相互作用 / 物質輸送システム |
Outline of Annual Research Achievements |
非平衡系におけるダイナミクスとして,マイクロメートルサイズの油滴が界面活性剤溶液中を自ら泳ぐ(自己駆動する)現象が注目されている。本現象は,油滴表面において界面張力が不均一であることに起因して油滴内外に対流構造が形成されることによるものと推定される。このようなダイナミクスは,電場や磁場などの外場を必要としない,省エネルギー型の物質輸送システムへの応用の観点からも注目を集めている。しかし,系を構成する界面活性剤や油分子の分子変換や,それらの間にはたらく相互作用といった有機化学的な視点から油滴ダイナミクスを制御しようとする試みはほとんどなされていない。そこで本研究では,自己駆動する油滴を用いた新たな物質輸送システムの構築を目的に,分子レベルからマクロな油滴の駆動モードを制御する可能性について検討を行った。平成28年度においては,以下2点の現象を見出した。 ①光照射による油滴の駆動方向の制御:光応答性のアゾベンゼン骨格を有するカチオン性界面活性剤を合成した。これの界面活性剤水溶液中でベンズアルデヒド誘導体の油滴が自己駆動しているエマルション系に紫外光を照射したところ,油滴は光源から逃げるように方向を転換して駆動することを見出した。また,異なる方向からの複数回の紫外光照射のいずれにも応答し,駆動方向を転換することを確認した。 ②高頻度に駆動方向を転換する油滴システムの開発:界面活性剤の分子構造が油滴の駆動モードに与える影響を調査するために,疎水基中にエーテルやエステル結合などの極性基を有するカチオン性界面活性剤を合成した。これらの界面活性剤水溶液中での油滴は高速で駆動し,頻繁に方向転換したが,極性基を有しない直鎖のカチオン性界面活性剤水溶液中での油滴の駆動は遅く,また,ほとんど方向を変えなかった。このように,界面活性剤の分子構造により油滴の駆動モードが顕著に異なることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度には計画通りに,「光照射により油滴の駆動方向の制御」について,アゾベンゼン骨格を有する界面活性剤を用いることで,油滴を任意の場所に誘導可能なシステムの開発に成功した。本知見は,自己駆動する油滴の物質輸送システムへの応用を考えた際の基盤技術となり得る点で重要である。また,「高頻度に駆動方向を転換する油滴システムの開発」については,疎水基の分子構造が異なる7種類の界面活性剤の合成に成功し,それらの水溶液中での油滴の駆動モードが分子構造により顕著に異なることを見出した。この結果は,マクロな油滴ダイナミクスが界面活性剤と油の分子間相互作用の観点から議論できる可能性を示唆している。両者の関係性をより詳しく検討するためには,油―水界面の平衡張力や界面活性剤の油滴表面への吸着速度などの界面物性を測定する必要があるが,界面活性剤の合成はすでに完了しており,また,それらを測定するための機器もすでに導入済みである。以上のことから,本研究課題は計画的に遂行できていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては,まず,「高頻度に自己駆動する方向を転換する油滴システムの開発」について,ベンズアルデヒド誘導体の油滴表面に界面活性剤が吸着する速度や油―水界面張力の測定をペンダントドロップ法により行うことで,界面活性剤と油の分子間にはたらく相互作用の観点から,界面活性剤の分子構造による油滴の駆動モードの違いについて検討を行う。続いて,「複雑なマイクロ流路内を目的の場所に向かって自己駆動する油滴システムの構築」に向けて,マイクロメートルサイズの流路の作製を行う。これまでに得られた知見をもとに,油滴の駆動を制御するための要素技術を統合することで,複雑に入り組んだマイクロ流路内において脂溶性物質を担持した油滴を目的の場所まで誘導可能なシステムの構築を目指す。
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Research Products
(13 results)