2017 Fiscal Year Research-status Report
第一原理電子状態計算に基づく自由エネルギー解析手法の開発とその応用
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16K17551
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
洗平 昌晃 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (20537427)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 計算物質科学 / 自由エネルギー計算 / 電子状態計算 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一原理電子状態計算手法と自由エネルギー解析手法(マルチカノニカルモンテカルロ法)を組み合わせたコードは初年度で完成したが,想像以上に計算時間を要することが判明した.この問題を克服するために,本年度はステップ毎に必要とされるエネルギー計算の速度を向上させることに取り組んだ.具体的には,汎用の古典分子動力学コードを組み込み,古典力場ポテンシャルを利用できるようにした.電荷の授受を記述することのできるReaxFF力場ポテンシャルを用いて,チタン酸バリウム固体内における酸素空孔拡散の自由エネルギー障壁高さを計算した.ただし,チタン酸バリウムに対するReaxFF力場ポテンシャルの適切なパラメータは存在しないため,以下の手続きでパラメータを決定した.まずは適当なパラメータでマルチカノニカルシミュレーションを実行し,得られたサンプルに対して第一原理電子状態計算とReaxFF力場ポテンシャル計算が同じ結果を与えるようにパラメータを更新し,その差が小さくなるまで更新を続けた.最適化されたReaxFF力場ポテンシャルを用いると,酸素空孔拡散の自由エネルギー障壁高さは0.72eVとなる.これは第一原理電子状態計算手法の結果0.69eVと非常によく一致していた.この結果は,適切に最適化された古典力場ポテンシャルであれば第一原理電子状態計算手法の代わりになる得ることを示している.そこでReaxFF力場ポテンシャルよりもさらに柔軟なニューラルネットワーク型古典力場ポテンシャルを作成し,その精度を確認している. テスト系として選んだチタン酸バリウムは代表的な強誘電体であり,誘電体材料として広く使用されているものである.また,酸素空孔拡散はその性能劣化に関連した現象である.したがって,「実験と理論の橋渡し役」や「産業技術に対する貢献」を目指す本研究課題の応用例の一つとして非常に意義深いものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第一原理電子状態計算手法(密度汎関数法に基づくVASPコード)と自由エネルギー解析手法(マルチカノニカルモンテカルロ法)を組み合わせたコードを開発した.開発した第一原理マルチカノニカルモンテカルロ法は,サンプリング手法としては非常にロバストであるが想像以上に時間を要することが判明した.これを改善するために分子動力学法を用いた手法(マルチカノニカル分子動力学法)を新たに開発している.また,さらなる高速化を目指しエネルギー計算エンジンそのものの高速化を図っている.具体的には,汎用の古典分子動力学コード(LAMMPSコード)と結合し,古典力場ポテンシャルを利用できるようにした.さらに,ニューラルネットワークを利用した高精度古典力場ポテンシャル作成の枠組みを作っている.現在,ニューラルネットワーク型古典力場ポテンシャルを希ガス原子の固液相転移の系に適用し,その精度を確認している.さらに,具体的な応用としてチタン酸バリウム固体内の酸素空孔拡散に対しても適用している.また,本研究課題で実施予定の系,すなわち「水の六量体」,「IV族二次元結晶の熱力学的安定性」,「超格子GeTe/Sb2Te3抵抗変化型メモリの構造変化機構」,「電極界面における電気化学反応」の各項目に対して予備計算は随時進めている. 開発している計算コードは,原子・分子の複雑な運動が介在する極めて解析困難な現象に対しても適用可能なものである.そのポテンシャルを高く評価していただいた企業と共同研究を開始した.計算に想像以上の時間を要してしまっており,交付申請書に照らし合わせればその進捗は遅れ気味ではあるが,自由エネルギー解析手法(マルチカノニカルモンテカルロ法)のポテンシャルは非常に高いものと再認識している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により,開発した第一原理マルチカノニカルモンテカルロ法は,並列化効率は非常に高いものの,想像以上に計算時間を要することが判明した.外部計算機センターの大規模超並列計算機を利用することで計算時間を短縮することは可能であるが,計算手法そのものの高速化も必須の状況である.高速化には二通りの方法が考えられる.一つ目は,シミュレーションアルゴリズムを高速化することであり,二つ目はステップ毎に計算されるエネルギー計算手法を高速化することである.本年度は二つ目のエネルギー計算手法の高速化に着手した.具体的には,汎用の古典分子動力学コード(LAMMPSコード)と結合し,古典力場ポテンシャルを利用できるようにした.さらに,機械学習手法の一つであるニューラルネットワークを用いて,第一原理電子状態計算の結果を再現するような古典力場ポテンシャルを作成する手続きを作り上げた.現在解析中であるが,第一原理電子状態計算より少なくとも100倍以上の高速化が達成されることを確認している.次年度は,本研究課題で実施予定の系,すなわち「水の六量体」,「IV族二次元結晶の熱力学的安定性」,「超格子GeTe/Sb2Te3抵抗変化型メモリの構造変化機構」,「電極界面における電気化学反応」の系において,ニューラルネットワーク型古典力場ポテンシャルを作成し,研究を推進していく.さらに,シミュレーションアルゴリズムの改善にも取り組む.開発した自由エネルギー解析手法で時間を要するのはモンテカルロ法に基づくアルゴリズムを用いている点にある.これを改善するために分子動力学法を用いた手法(マルチカノニカル分子動力学法)を開発する.これにより数10倍の高速化が見込まれるため研究の推進を加速することができる.
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Research Products
(6 results)