2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K17554
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
安田 修悟 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (70456797)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自己組織化 / マルチスケール / 記憶効果 / 走化性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ソフトマターや生物流体に代表される複雑流体において、重要な概念の一つとして「記憶効果」がある。記憶効果は、ソフトマターでは、流体分子の内部構造の遅い緩和現象によって、生物流体では、個体の環境適用における遅れによって生じる。これらの現象は、本質的に非線形非平衡なマルチスケールの問題で計算科学によるアプローチが重要となる。本研究では、記憶効果が重要となるソフトマターと生物流体の具体の問題に対して、それぞれの有効なシミュレーション手法を開発するとともに、複雑な流動現象やパターン形成の問題を記憶効果とうい統一的な視点から物理的、数理的に整理し、記憶効果が重要となる多様な現象の系統的な理解に繋げることを最大の目標とする。 具体の課題としては、走化性バクテリアのパターン形成の問題と高速熱潤滑の固体化現象の問題に取り組んでいる。 走化性バクテリアのパターン形成の問題では、個々のバクテリアの走化性応答を確率的に記述するメゾスケールモデル(走化性運動論モデル)を基にした、モンテカルロシミュレーションを独自に開発し、パターン形成におけるマルチスケールメカニズムを解析した。また、運動論モデルの理論解析も行い、パターン形成が起こるパラメータ間の条件(線形不安定性条件)を明らかにし、理論とシミュレーションの両側面からパターン形成のマルチスケールメカニズムを明らかにした。走化性バクテリアの問題については、これまでに、4編の論文を執筆し、うち3編は既に採択または採択が決定された。 高速熱潤滑の問題についても、粘性発熱が誘起する新しい固体化現象の発見という重要な研究成果があった。これは、高速潤滑における発熱が逆に壁面近傍での流体を固体化させるという反直感的な現象であり、国際会議の発表では興味深い研究成果として注目を集めた。この問題については、最近、1編の論文が採択決定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、複雑流体と生物流体における複雑な自己組織化現象に対して、「記憶効果」という観点からその現象の普遍的な側面を理解することを最大の目標としている。 現在までの研究では、生物流体については、走化性バクテリアのパターン形成の問題について4編の論文を、複雑流体については、高速熱潤滑の固体化現象の問題について2編の論文を執筆した。これらの論文のうち4編については既に採択または採択が決定されており、研究成果については研究開始当初の目標以上の成果が上がっている。 走化性バクテリアのパターン形成の問題では、大規模なパターン形成が起こるための物理的条件を、個々のバクテリアの走化性応答を特徴付けるパラメータを用いて明らかにすることに成功した。また、パターン形成の問題に限定しない、より一般な走化性バクテリアの集団現象に適用できる、新しいシミュレーション手法の開発に成功した。 高速熱潤滑の問題では、分子動力学シミュレーションを用いて、粘性発熱が誘起する壁面近傍での新しい固体化現象を発見することができた。この現象は、壁面と流体分子のミクロな相互作用だけでは説明することができず、むしろ流路内のマクロな流体輸送現象が重要となる新しいタイプの壁面近傍の固体化現象であることが分かってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究では、具体的な二つの問題(走化性バクテリアと高速熱潤滑の自己組織化現象)について、それぞれ独立に研究を進めてきた。そして、それぞれの問題に対して、ミクロ又はメゾスケールのシミュレーション手法の開発と理論的な解析を行い、そのマルチスケールのメカニズムを明らかにすることに取り組んできた。 研究最終年度である本年度は、本研究課題の最終目標に向かった研究に取り組んで行きたい。すなわち、これまでの研究成果を基に、さらにモデルや解析を発展させ、記憶効果がより重要で本質的となる問題に取り組んで行く。 具体的な課題としては、走化性バクテリアの記憶効果を応答関数に陽に組み込んだ新たなモデルを構築し、パターン形成における記憶効果を具体的に明らかにする。記憶効果を含む走化性バクテリアの新たな数理モデルを基に、モンテカルロシミュレーションを拡張し、走化性バクテリアのパターン形成における記憶効果とマルチスケールメカニズムを明らかにすることを目標に取り組む。また、複雑流体の解析で用いられる、動的粘弾性応答の理論を応用し、走化性バクテリアの動的応答関数のモデリングにも取り組む。 高速熱潤滑の固体化現象に対しては、さらに深い解析を行い、固体化現象を決定づける物理因子を明らかにする。境界条件や分子間相互作用の影響について多角的に調べるとともに、さらに大規模な分子シミュレーションを行い、マクロな流体輸送の影響についてもより詳細に調べていく。
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Causes of Carryover |
論文出版費として予算計上していたが、論文査読が予想以上に長引くこととなり、年度内に予算を執行することが出来なくなった。 本年度は、論文出版費については、論文が受理され次第、予定通り執行する。
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