2018 Fiscal Year Research-status Report
粒子と量子場の相互作用系に対する束縛条件の導出と繰り込みの研究
Project/Area Number |
16K17612
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
佐々木 格 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (50558161)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 場の量子論 / スペクトル解析 / 量子ウォーク / 基底状態 / 時間作用素 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)量子力学的な粒子が量子場と相互作用するモデルにおいて,基底状態の存在はその系の最も安定な状態であり,多くのモデルにおいて基底状態が存在することが予想されている。基底状態の存在を証明するための道筋は,ここ20年の進歩により,ほぼ完成しているといえるが,複雑な相互作用を持つモデルに対しては,そのモデルごとに新しい不等式を証明しなければならない。本研究の一つの目的は量子電磁力学の一つの模型である準相対論的Pauli-Fierzモデルにおいて基底状態を証明することであった。ここでは,粒子が質量0の相対論的粒子である場合を考察した。このモデルの解析が,通常のPauli-Fierzモデルよりも難しい点は2つある:(a)相互作用が非局所的であり,相互作用を具体的に計算することが出来ない。(b)粒子の質量が零である為,粒子は低エネルギーの相互作用に対して容易に加速されてしまい,相互作用を運動エネルギーで評価するのが難しい。研究代表者は,日高健氏,廣島文生氏(九州大学)との共同研究により,非常に広いクラスの外部ポテンシャルと結合関数(これは電磁場から見た粒子の形を表す)に対して,質量0の準相対論的Pauli-Fierzモデルの基底状態の存在を証明した。ここで特に新しい点は,赤外発散の処理に廣川氏(広島大学,九州大学)によって開発された手法を一般化して適用した事である。
(2)量子ウォークの時間作用素の研究について (離散時間の)量子ウォークは一つの量子論の一つのモデルであり,これは,単位時間の時間発展を記述するユニタリ作用素を定めることによって定義される。量子ウォークにおける時間作用素は時間発展Uと U^*TU = T+1 という関係を満たす作用素Tとして定義されるが,量子ウォークに対する時間作用素の研究は近年始まったばかりである。量子ウォークの時間作用素を考察し,その不足指数を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 1粒子の場合の準相対論的Pauli-Fierzモデルの基底状態の存在証明が完成した。このモデルに対する期待状態の存在を非常に広いクラスのポテンシャルと結合関数に対して証明することが出来た。また,証明のステップの一つとして,量子場が空間的に局在していることの証明に使える一般的な補題を証明した。 (2) 量子ウォークの時間作用素の研究は前例が殆ど無い。我々の研究によって量子ウォークに対する時間作用素の理論の基礎的な整備が行われた。また,時間作用素のスペクトルが複素数全体になる場合があること,また時間発展が零でないワインディングナンバーを持つときに,時間作用素が自己共役であることが証明された。さらに,3ステップの量子ウォークを用いて,ワインディングナンバーが零でないような非自明なモデルを構成した。これらの結果については現在論文執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
一般的に,量子場の相互作用系においては,赤外発散に寄与するのは場の1次の相互作用項であるとされている。したがって,例えば場の2乗の相互作用を持つモデルでは赤外発散は起きない。このことは,Bogoliubov変換を用いてハミルトニアンを対角化することにより証明されている。また結合定数が非常に小さい場合には作用素論的くりこみ理論によって部分的に解析を行うことができる。しかし,一般的には具体的に対角化が行えない場合に,赤外発散の処理をどのように行えばよいのかはあまり知られていない。Bogoliubov変換によって赤外発散がどのように処理されるのかを調査し,その数学的な構造を作用素論的に明らかにする必要がある。
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