2016 Fiscal Year Research-status Report
エントロピーを用いた有理曲面上の自己同型写像の解析
Project/Area Number |
16K17617
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
上原 崇人 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40613261)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 有理曲面 / 自己同型写像 / 力学系 / エントロピー / 変形理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究対象は, コンパクト複素多様体上の双正則自己同型写像による複素力学系である. 今年度は, 反標準曲線を許容する有理曲面上で正の位相的エントロピーをもつ自己同型写像について調べた. 自己同型写像が反標準曲線を保つ場合, 写像のディターミナントが定義されるが, このディターミナントが1のベキ根でない場合に写像の変形理論について考察した. 具体的な研究成果は次の通りである. ディターミナントが1のベキ根でない場合, 反標準曲線を保つ自己同型写像のクラスはリジッドとなる, つまり, 非自明な写像の変形は存在しない. 本結果より, 非自明な写像の変形を構成して力学系理論における分岐理論等を展開しようとする場合, 当該クラスではなく別のクラスを考察する必要がある. どのクラスに非自明な変形が存在するかを調べることが今後の研究課題である. 本結果を得るためのアイデアは次の通りである. まずは, 自己同型写像を許容する2次元射影空間のブローアップの点配置を決定することが必要である. そこで, 自己同型写像のコホモロジー群への作用の固有値の1つがディターミナントとなっており, このディターミナントに対応する固有ベクトルを用いて, ブローアップの点配置が具体的に記述できることを示した. このディターミナントは単純固有値となり点配置が一意に定まるため, 写像がリジッドとなり当該結果が得られた. 本結果は, ブローアップの点配置がコホモロジー群への作用という代数的な情報から決定されることを示しており, 興味ある結果であると考えている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1つの目的は, どのクラスに非自明な写像の変形が存在するかを調べることあった. 今年度の研究成果は, 反標準曲線を保ち, ディターミナントが1のベキ根でない自己同型写像のクラスでは, 非自明な写像の変形が存在しないことを示すこととなった. つまり, 非自明な写像の変形を構成しようとする場合には, 別のクラスを考察しなければならないこととなる. 当該研究が今後の研究に大いに貢献しているため, おおむね順調に進展していると結論づけた.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も複素曲面上の写像による力学系の研究を行う. 特に次年度は, 最大エントロピー測度を用いた実力学系の解析を行う. コンパクト複素曲面上で正エントロピーの双正則写像に対して, 最大の測度論的エントロピーをもつ鞍型で双曲的な不変測度が存在する. 当該不変測度の台上で, 双正則写像による力学系が本質的に複雑な挙動を示すため, 台の形状もしくは不変測度の性質を調べることは重要である. 一方, 自己同型写像が拡大的もしくは縮小的な場合, 複素力学系は適当な実数部分を保ち, そこに制限することで実力学系となることがある. もし, 複素力学系における不変測度の台が実数部分に含まれていれば, 実力学系に関するエントロピーと複素力学系に関するエントロピーが一致していることが想定される. 複素力学系においては, 複素ポテンシャル論を用いることでエントロピーの具体的な計算方法が確立されているが, 実力学系のエントロピーの計算方法は未だ確立されていない. そこで, 不変測度の台が実数部分に含まれているか否かを評価することで, 複素力学系を用いた実力学系のエントロピーの計算を遂行する. 上記研究計画を執行するためには, 多くの文献を用いた基礎的研究をすること, そして多数の研究集会に参加して情報収集をすることが必要である. そこで文献を購入するとともに, 研究者との意見交換を行うために, 国内外を問わず出張を行う. また, 具体的なモデルに対する数値実験を行うため優れたコンピュータ等を購入する.
|
Causes of Carryover |
今年度の研究においては, 情報収集および研究成果発表に伴い旅費の支出額が予定より増えたが, その一方で, 今年度はコンピュータを購入することなく研究成果をあげることができたため, 物品費の支出額が予定より減少して, 結果的に今年度の支出額を抑えることに成功した.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究においては多くの研究費が必要となる. まず, 上記で述べた研究を遂行するためには, 具体的なモデルに対する数値実験は不可欠である. そのため, 本研究において必要となる優れたコンピュータ等を購入する. また, 知識習得のため, 代数・幾何や力学系に関する書物や, 関連する研究成果のまとまった専門書も購入する. さらに, 研究成果を発表するため, また研究者との意見交換を行うため, 出張を行い研究集会等に参加する.
|
Research Products
(4 results)