2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17620
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
久保田 直樹 日本大学, 理工学部, 助教 (20754972)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 不規則媒質中の乱歩 / 大偏差原理 / ファーストパッセージパーコレーション / ランダムポテンシャル中の乱歩 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主に,今後の研究活動において必要な情報の収集とそれを踏まえた講演を行った.特に,本研究課題の中心的話題である「ファーストパッセージパーコレーション」と「ランダムポテンシャル中の乱歩」に焦点を当て,国内外の研究集会へ積極的に参加した. 主な活動の実績としては,以下が挙げられる: 1.ノースウェスタン大学において,本研究に関連の深い一連の研究集会「Emphasis year in Probability Theory」が開催された.そのうちの2つ「Workshop on percolation, spin glasses and random media」と「2016 Summer School in Probability」に参加した.前者においては,「ランダムポテンシャル中の乱歩に関する集中不等式」について招待講演を行った.また後者においては,Michael Damron氏が行ったファーストパッセージパーコレーションの講義を聴講した.基礎的な内容を主に扱った講義であったが,近年の動向を踏まえた構成になっていたため,本研究のように「新たなモデルへの応用」という面においては非常に役立つ内容であった. 2.NYU上海へ出張し,Vladas Sidoravicius氏と議論を行った.この議論を通し,本研究にとって有意義な対象を見出すことができた.1つ目は「フロッグモデル」と呼ばれる,ファーストパッセージパーコレーションと乱歩の中間的モデルである.2つ目は「ミラーモデル」と呼ばれる不規則媒質中の乱歩の一種である.これら2つのモデルにおいては,大偏差原理を含む基本的な極限定理でさえ未解明な部分が多い.そのため,本研究の応用が期待できるだけでなく,本研究自体を進展させるアイディアも多分に含んでいると思われる. 3.「日本数学会2016年度秋季総合分科会」の統計数学分科会で特別講演を行った.不規則媒質中の乱歩に対する大偏差原理へのファーストパッセージパーコレーションの応用を視野にいれた内容で講演を行い,関連分野の専門家から幅広く助言を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年の目標は,今後の研究に必要となる情報の収集を行うことである.研究実績の概要でも挙げた通り,国内外の研究集会へ積極的に参加し,講演発表や議論を行うことができた.それにより,本研究の中心的話題である「ファーストパッセージパーコレーション」と「ランダムポテンシャル中の乱歩」の研究について,いくつもの有益な情報を得ることができた. 主な成果と課題は以下である: 1.ファーストパッセージパーコレーションに関する研究集会や議論を通じて,本研究の目標である「大偏差原理に現れるレート関数の連続性」に関する有用なアイディアや助言を得ることができた.特に,パーコレーションを用いた粗視化の議論と,経路と交差するパーコレーションクラスターのサイズの評価は本研究にも有効に働くと期待できる.しかし,それらを本研究全体へ応用するのに十分なアイディアの発想にまでは至っていない. 2.本研究への応用を見据えて,ランダムポテンシャル中の乱歩の到達コストに対して,集中不等式と収束スピードに関する研究を行ってきた.ランダムポテンシャル中の乱歩についても「大偏差原理におけるレート関数の連続性」と同様の問題があり,到達コストに対する集中不等式と収束スピードの研究は,それらと密接に関連していることが分かってきた.研究集会への参加や個人的な議論を通してこのような事実を確認し,現在の研究方針の妥当性をある程度確かめることができた.しかしここでもやはり,本来対象としているモデルとのギャップを埋めるためのアイディアが不足している状況である. 上記で述べたように,各アプローチにおいてアイディアの不足が見受けられるが,本年度の目標はそれらの問題点を発見することであるため,進捗状況はおおむね順調であるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたように,「ファーストパッセージパーコレーション」と「ランダムポテンシャル中の乱歩」の2つの研究を,本研究に対して応用していく段階に入ってきている.今後は,これら2つのモデルで得られた結果と「不規則媒質中の乱歩に対するレート関数」を繋げるアプローチの開拓に力を注ぐ. これを遂行するために,上記2つのモデルの先行研究を見直し,仮定の一般化や結果の精密化などの改良を行っていく.その中でも特に,以下の内容に焦点をあて,研究に取り組んでいく: 1.ランダムポテンシャル中の乱歩における到達コストの収束速度について.各座標軸方向においては,この問題は既によく知られている.その一方で,斜め方向などその他の方向においては未解明である.今年度行った調査により,この問題は本研究課題においても重要と思われる手法を含んでいることが分かった.そこで,この問題に取り組むことで,本研究の推進に役立てる. 2.リアプノフ指数の連続性について.最終目標は「大偏差原理におけるレート関数の連続性」であるが,その前段階として「リアプノフ指数の連続性」に取り組んでいく.この問題に対しては,今年度の調査により,ファーストパッセージパーコレーションの技術がある程度応用できることが分かってきた.そこで,ファーストパッセージパーコレーションで既に分かっている内容とリアプノフ指数の未解明な部分を照らし合わせ,本研究の推進に役立てる. 上記を達成できても尚,本研究に対する適切なアプローチが見つからない場合,研究実績の概要でも紹介した「フロッグモデル」などの周辺モデルについても調査を行い,新たなアイディアを積極的に取り入れていく.また,毎年度の海外出張を行い,最新の研究動向に対する情報収集,および関連分野の研究者との議論を行っていく.
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Causes of Carryover |
以下の理由により,上記の次年度使用額が生じた: (1)本研究費の使用を考えていた研究集会において,招待講演者という理由から旅費の援助があったため次年度使用額が生じた.(2)比較的早期に出張の予定を計画できたり,直通の飛行機の使用や近隣国への出張が多かった.これにより旅費の支出を抑えられたため,次年度使用額が生じた.(3)本研究の論文作成のためにコンピュータの購入を考えていたが,適したものを購入できなかったため,次年度使用額が生じた. また今年度の主目的は,本研究に関する情報収集を行うことであったため,関連する研究集会へ国内外を問わず積極的に参加する必要があった.(1)の事由により各出張の旅費を抑えることはできたが,その分,予定より多くの出張を行った.そのため,物品費等を圧迫し,残金では購入不可能なものもあり,次年度での使用を検討するに至った.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については,以下のように使用する: (1)今年度行った研究活動の結果,次年度に,当初予定していなかった研究打ち合わせをいくつか行う必要性が生じた.そこで,そのための出張に今回発生した次年度使用額を用いる.(2)円レートの変化など,状況によっては海外出張において想定外の支出が考えられ,その際には今回発生した次年度使用額を用いる.(3)今年度購入できなかったコンピュータを購入するために,今回発生した次年度使用額を用いる.また,その他今年度に購入できなかった物品の購入に用いる.
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