2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17621
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
浜向 直 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70749754)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 粘性解 / 等高面法 / 決定論的ゲーム / 比較定理 / 平均曲率流方程式 / ハミルトン・ヤコビ方程式 / 動的境界条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶表面のような物質の異なる二相を隔てる曲面は「界面」と呼ばれ、その動きは非線形偏微分方程式で記述される。しばしば特異性を持ち、退化もし得るそれらの方程式に対して、微分方程式の弱解の概念の一つである粘性解の理論が有用であることは知られており、いくつかの離散近似法なども提案されてきた。しかし、収束性以上の深い性質や応用が十分明らかになっているとは言えない。本研究の目的は、これまでばらばらに発展してきた連続問題と離散問題に対して、それらをつなぐ粘性解理論を構築することで、各々の問題に新たな理解を与えることである。またそのための土台となる、解の一意存在性の確立や、漸近挙動などの解の諸性質の研究を通して、界面運動を記述する非線形偏微分方程式に数学的な基礎付けを与えることも同時に目指す。 平成29年度は、(1)改良等高面方程式の解の漸近的性質、(2)動的境界値問題に対する粘性解理論、具体的には[a]決定的離散ゲーム問題に基づく解の表現公式の導出・その応用と、[b]特異な放物型方程式に対する粘性解の一意存在性と正則性の確立、(3)病的関数を初期値とするハミルトン・ヤコビ方程式の粘性解の性質、を主に研究した。(1)では、前年度導入した、解が符号付き距離関数を近似するパラメータ付きの改良等高面方程式に対し、その解の収束レートを調べ、片側からの評価を得た。(2)では、前年度導入した、平均曲率流方程式の動的境界値問題に対する離散ゲームの値関数の極限として得られる粘性解の諸性質を調べた。また、一般の特異・退化放物型方程式の初期値問題に対して、解の存在とリプシッツ連続性や、さらに境界条件に含まれる係数についての解の漸近挙動を調べた。(3)では、高木関数を典型例として含む初期値のクラスに対し、下限畳み込みで表される、ハミルトン・ヤコビ方程式の粘性解の性質を詳細に調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)では、離散的な数値解法で生じる問題を動機とし、解の傾きがゼロ等高面付近で大きくも小さくもならないような、改良等高面方程式の導入を目指した。既に、解が符号付き距離関数を近似するパラメータ付きの改良等高面方程式は導入済みであったが、緩和極限の方法を用いる収束の議論では、その収束レートが明らかにならない。そこで距離関数を基に適当なバリアを構成することでその解の収束レートに関する片側からの評価を得ることができた。 (2)の[a]離散ゲームについては、前年度導入した、空間2次元の場合の平均曲率流方程式、および一般の完全非線形放物型方程式の粘性解のゲーム的解釈を基に、解の肥大や漸近挙動などの応用について考察した。また[b]の特異な方程式に対する粘性解理論では、解の一意存在性やリプシッツ連続性に加え、動的境界条件の係数の極限に関する解の漸近挙動も調べ、良く知られたノイマン問題・ディリクレ問題の解への収束を明らかにすることができた。 (3)では、高木関数を初期値とするハミルトン・ヤコビ方程式の粘性解が、瞬間的に、離散的な点でのみ下限を取る下限畳み込みで表されるという顕著な幾何的性質を持つことに動機を得て、そのような幾何的性質を導く関数のクラスを、離散的2階差分を用いて特徴付けた。結果的に、そのような性質を導く関数は病的関数(至る所連続かつ至る所微分不可能な関数)に限ることが明らかになった。また周期的凹関数の級数で、このような病的関数が得られることも分かった。病的関数の一部のクラスに、ハミルトン・ヤコビ方程式と離散的な差分を通した新たな見方を与えたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)の改良等高面方程式に関する研究では、平均曲率流方程式のような特異性を持つ2階方程式がまだ扱えていない。改良方程式をどのように導入するか、その解の性質をどのように調べるかが今後の研究課題である。また数値実験を行い、理論と整合する期待する結果が得られるかも調べたい。(2)の動的境界値問題の粘性解理論の研究について、特に[b]の方では、半空間や層状といった境界が平坦な領域に対してしか、現状では一意存在性が明らかになっていない。領域をどこまで一般化できるかが今後の課題である。また境界条件には線形性が必要であり、こちらもどこまで一般化できるか考察する。[a]の離散ゲームにおいても、値関数の収束のために比較定理が重要な役割を果たすため、双方並行して研究を進めたい。(3)では、離散点での下限を取るという解公式は、解の初期時刻付近での挙動をより詳細に調べるのに大いに役立つと期待される。高木関数のような特殊な場合から考察を進める。 なお(1)の研究は1階方程式に対する成果をまとめて単著として論文雑誌に投稿済み、(2)の研究は[a]の離散ゲームについては福岡大学の柳青氏との共同研究として投稿準備中、[b]の特異な方程式に対する粘性解の一意存在ついては東京大学の儀我美一氏との共同研究として投稿準備中である。(3)の研究は富山大学の藤田安啓氏・山口範和氏、ローマ大サピエンツァのAntonio Siconolfi氏との共同研究として投稿準備中である。
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Causes of Carryover |
理由:研究に必要と見込んでいた書籍・パソコン周辺機器類の購入額、また印刷費や会議費などが押さえられ、物品費とその他の経費の支出が予定よりも少なくなったため。
使用計画:現在進行中・準備中の研究について、共同研究者との研究打ち合わせための出張旅費、また研究集会などにおける成果発表のための出張旅費として支出予定である。
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Research Products
(10 results)