2017 Fiscal Year Research-status Report
大規模撮像分光データを用いた銀河化学進化の環境依存性の解明
Project/Area Number |
16K17659
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢部 清人 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (60749480)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 銀河形成 / 銀河進化 / 化学進化 / 環境効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1の目標である、すばる望遠鏡FMOSで得られた大規模近赤外分光サンプルを用いた赤方偏移1.4付近における金属量と銀河環境の関係に関して、データ処理などの主要な解析とそのチェックを終えた。初期成果で見られていたように、局所密度が高い高密度領域における銀河は同じ星質量で見た場合、高い金属量を持つという傾向が見られた。ただし、限られた分光サンプルから導出した局所密度が本当の密度を反映しているかをさらにチェックする必要がある。また、宇宙論的シミュレーション(Illustris simulation)の結果を用いて、同様の赤方偏移で同様の手法を用いて局所密度を導出し、異なる局所密度のサンプルについて星質量-金属量関係を調べたが、統計的に有意な差は見られなかった。
第2の目標である、低赤方偏移におけるSDSS分光データおよびすばる望遠鏡HSC撮像データを用いた環境効果に関して、まずはSDSSのデータを用い、局所密度だけではなくcosmic webを含めた大規模構造のどの部分に付随するかの違いでサンプルを分け、星質量-金属量関係を調べたが、統計的に有意な差は見られなかった。これは、cosmic webと化学進化の無関係性を示唆しているが、あくまで近傍での結果であり、赤方偏移1.4付近でどうかは不明である。従って、我々のサンプルについても、同様の手法を用いて更に調査することとした。また、HSCの深い撮像データを用いた局所密度の測定に関して、初期のデータリリースを用いて解析を行ったが、これまでにSDSSのみを用いて見られていた傾向は見られなかった。解析の時点で手に入るHSCデータが限定されていたことがひとつの原因かもしれず、新たに公開されたデータを用いて、再解析する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
すばる望遠鏡FMOSで得られた大規模近赤外分光サンプルを用いた赤方偏移1.4付近における金属量と銀河環境の関係に関する研究は大部分の解析が終了し、投稿論文を準備中であったが、本研究では分光サンプル数が限られていることもあり、今回の手法で導出した局所密度が本当の密度を反映しているかを慎重に調べる必要があることが分かった。従って、シミュレーションなど追加の解析によって更に調査する予定である。また、銀河環境を定義する上で、密度環境のみならず、いわゆるcosmic webを含めた大規模構造のどの部分に付随するかが、銀河の性質に影響を与える可能性があるという最近の研究結果が出てきた。低赤方偏移においてはSDSSのデータを用いて、簡単な解析を行ったが、金属量の依存性に関しては有意な結果は得られなかった。我々の赤方偏移1.4付近のサンプルについても、同様の解析手法の利用を追求し、更なる追加解析を行うこととした。HSCの撮像データを用いた局所密度の測定に関して、解析当時の時点でリリースされていたHSCデータが非常に限定されていたため、サンプル数が結論を導き出すためには不十分であり、新しいデータを用いて更にサンプル数を増やす必要が出てきた。また、HSCの撮像データを解析する上で、興味深い強輝線天体を発見し、これらを分光追観測を現在行っている。これらの銀河は普通の銀河とは異なる環境にいる可能性があり、化学進化における環境依存性を明らかにする上で、非常に重要な研究対象となるため、並行して研究を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、赤方偏移1.4付近においてFMOSを用いて得られた大規模近赤外分光サンプルについて、今回の手法で導出した局所密度の妥当性を、シミュレーションなど追加の解析を行うことで、より慎重に調査する予定である。また、大規模構造のどの部分に付随するかを、最近の研究結果を参考にしつつ、同様の手法を用いて定量的に評価する。得られた環境パラメータを用いて、星質量-金属量関係を始めとする銀河の性質の環境依存性を調査し、最終的に査読論文として出版する予定である。また、HSCの深い撮像データを用いた局所密度の測定に関して、初期のデータリリースのみでは不十分であったため、次年度早々に公開予定の新しいデータを用いて再解析を行う予定である。新たに得られるデータはこれまでに利用していたものの数倍の面積に相当するため、統計的に十分なものになることが期待される。また、HSCの撮像データを用いて見つかった強輝線天体の分光観測を引き続き行い、本研究におけるサンプルとの比較を通して、化学進化における環境依存性を明らかにする予定である。
|
Causes of Carryover |
当初計画を効率的・効果的に進めた結果、直接経費を節約できた。また、銀河環境と銀河の性質に関して重要な知見をもたらす研究結果が海外の研究者らによって最近示されため、当研究においても追加の解析を行い、より精緻に調査する必要が出てきた。この成果を査読論文としてまとめ、国内外の研究会において発表を行う必要があるため、補助事業期間を延長し次年度に繰越を行う。
|
Research Products
(15 results)