2018 Fiscal Year Research-status Report
近赤外線高分散分光観測で拓く星間巨大有機分子の研究
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16K17669
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
濱野 哲史 国立天文台, TMT推進室, 特任研究員 (70756270)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 星間有機分子 / 赤外線高分散分光 / 星間物質 / フラーレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、星間空間における巨大有機分子の性質・起源・反応過程の解明に向けて、有機分子の電子遷移吸収バンドと考えられている"diffuse interstellar bands" (DIB) の赤外線高分散分光観測を行い、DIBを引き起こしている未知の星間有機分子の性質を明らかにし、その同定を目指すものである。H28-29年度には神山天文台・荒木望遠鏡とチリのLa Silla天文台・NTT3.58m望遠鏡において主力装置であるWINEREDを用いてデータを取得し、現在その解析・考察を進めている。 H30年度は、星間分子の研究でよく用いられる大質量星Cyg OB2 No.12の高精度なスペクトルを解析した。その結果、星間化学反応の理解に重要でありDIBとも深く関連する2原子分子CN、C2の近赤外吸収バンドの検出に初めて成功した。各分子の回転状態分布から星間物質の密度・温度といった重要パラメータを従来よりも高い精度で求めた。また、C2分子では同位体分子種の12C13Cを検出することに初めて成功した。本研究により星間化学反応の理解に重要な同位体比をC2分子において初めて測定が可能となり、さらなる観測により星間化学反応の理解が進展することが期待される。この研究成果は論文にまとめ現在投稿中である。 また、WINEREDによる生データを解析しスペクトルデータを抽出するパイプラインソフトのアップデートを進めた。H29年度からNTT望遠鏡に移設し新たに得られたデータや、また同時期に立ち上がったWINEREDの新たな観測モードで得られたデータの特性を調査し解析手法の精緻化を検討した。これによりNTT望遠鏡や新観測モードで得られたデータについても効率よく高いクオリティのスペクトルを抽出することが可能となった。このパイプラインの開発については日本天文学会で報告し、論文の投稿準備を現在進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29年度に実施されたWINEREDのNTT望遠鏡への海外移設は本研究の開始時には計画されていなかったものであり、移設に伴う観測データのクオリティ向上は研究の進展に大きく寄与する一方で、観測自体の作業量の増加(移動や観測準備、望遠鏡利用申請など)に加えて、得られるデータが質的に変化したためその特性の調査やデータ解析パイプラインの対応は研究計画を遅らせる大きな要因となった。 WINEREDで得られた観測データを処理するパイプラインソフトをすでに構築していたが、H29年度に本格的に立ち上がったWINEREDの新たな観測モード「HIRESモード」で得られたデータの解析を進めていくうちに、モード特有の問題が新たに複数見つかった。この観測モードは本研究課題を進める上で非常に重要であり、データ処理における問題の解消は必要不可欠である。またNTT望遠鏡に移設されたことでデータのクオリティが大幅に向上したが、それを十分に活かすためにはパイプラインソフトとして実装されていたデータ解析手法の精緻化が必要であることがわかった。これらの問題の対処に想定以上の時間がかかったことで計画に遅れが生じた。 また、研究代表者の所属先の変更、およびそれに伴う転居なども計画を遅らせる一因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
前述した計画の変更・遅れに伴って研究期間を1年間延長した。観測はすでにH29年度までで概ね終了しており、現在そのデータの解析を急ピッチで進めている。本研究では大きく3つの研究テーマを掲げており、「(1)近赤外線DIBの包括的な検出および高精度プロファイルの導出」、「(2)DIBキャリアの化学的性質の解明」、については概ね解析を終え論文執筆を現在進めており今年度の早い段階で仕上げていきたいと考えている。「(3) DIBキャリアの物理的性質の解明」については基本的に得られたデータ全てを用いて統計的にDIBの性質を議論するため、まずは全データの解析を行う必要がある。年度の前半には解析を終え、年度の後半にかけて考察・論文化を進めていく。
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Causes of Carryover |
本来投稿論文の掲載料として支出する予定であった金額が研究計画・論文執筆の遅れにより執行できず研究期間を延長し次年度に繰り越した。延長した最終年度においても基本的に論文の投稿料として支出することを計画している。必要に応じて国内の研究協力者の方との打ち合わせや研究会参加のための旅費として使用することも想定している。
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[Journal Article] A Survey of Near-infrared Diffuse Interstellar Bands2018
Author(s)
Hamano Satoshi, Kobayashi Naoto, Kawakita Hideyo, Ikeda Yuji, Kondo Sohei, Sameshima Hiroaki, Arai Akira, Matsunaga Noriyuki, Yasui Chikako, Mizumoto Misaki, Fukue Kei, Izumi Natsuko, Otsubo Shogo, Takenaka Keiichi
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Journal Title
Bulletin de la Society Royale des Sciences de Liege, in Proceedings of the First Belgo-Indian Network for Astronomy & Astrophysics (BINA) workshop
Volume: 87
Pages: 276-280
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] 近赤外線高分散分光器WINERED: データ解析パイプラインの開発2019
Author(s)
濱野哲史, 近藤荘平, 鮫島寛明, 福江慧, 新井彰, 河北秀世, 大坪翔悟, 竹中慶一, 渡瀬彩華, 池田優二, 小林尚人, 松永典之, 安井千香子
Organizer
日本天文学会2019年春季年会
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