2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17679
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
伊敷 吾郎 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50710761)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 行列模型 / 超弦理論 / M理論 / 非可換幾何 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、超弦理論/M理論の非摂動的定式化を与えると予想されている行列模型について重点的に研究を行った。特に、行列模型におけるM5-braneと呼ばれる物体の記述と、行列模型における非可換幾何の記述について深い理解を得ることが出来た。 M5-braneは、M理論の基本的物体であるが、これが行列模型でどのように記述されるのかはこれまで分かっていなかった。この記述を理解することは、行列模型がM理論の定式化を与えていることを示す上での試金石であり、重要である。本研究では、この問題を理解するために、局所化と呼ばれる新しい計算手法を行列模型に適用し、行列模型の厳密計算を行った。その結果、低エネルギー領域における場の配位として、M5-braneが確かに行列模型の枠内で実現されていることが初めて示された。 また、行列模型の幾何学の研究は、2016年度から行っているものであるが、2017年度にはこれまでに得られた幾何の定式化の物理的・数学的意味を、より深く理解することが出来た。本研究で提唱した定式化は、数学の分野ではBerezin-Toeplitz量子化と呼ばれる手法と密接に関係していることが明らかになった。また物理の分野では、タキオン凝縮と呼ばれる現象において、本研究の定式化が重要な役割を果たすことが分かった。どちらもこれまでに知られていない全く新しい視点であり、これらの新しい視点を得たことにより、これまで発展させてきた幾何の定式化を、より見通しよく理解することが出来た。また、数学の分野での非可換幾何についての会議にも招待され、普段接する機会の少ない数学の研究者の方々と、この話題について議論し、交流が持てたことも大きな収穫であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
行列模型におけるM5-braneの記述はこの分野における難問の一つとして考えられており、行列模型が提唱されて以来、30年近く未解決問題であった。本研究の結果は、この問題について大きな進展をもたらすものである。この問題に取り組むこと自体は、課題申請時に念頭に置いていたが、本研究では当初予期していなかった厳密計算により、非常に美しい形での導出ができた。そのため、この問題については当初の計画以上に進展があったと言える。 また、行列の幾何の研究では、計画時に予期していなかった数学的・物理的理解が得られた。従って、この研究に関しても当初の計画以上に進展していると言える。 もう一つ研究のキーワードであった、行列模型の数値計算に関しては、堅調に進んでいる。昨年度は精度を上げるための計算に終始したが、特に問題なく進んでおり、これは当初の計画通りであると言える。 以上より、二つのテーマで大きな進展が得られたため、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度に得られた行列模型におけるM5-braneの記述について、より詳細に理解する。特に、これまでは重力が効かないような、理想的な状況での解析を行ってきたが、重力の効果を取り入れた状況にこれを拡張する。この研究により、本研究で発見した記述法のより普遍的な状況下での理解ができると期待される。 行列模型における非可換幾何の研究では、今後、幾何の不変量を見出したい。特に、一般相対性理論では、リーマン曲率というものが重要な不変量を与えていたが、これの非可換幾何における対応物を見つけたい。これは一般相対論を非可換空間上に拡張し、量子重力理論を構成する上で重要なステップとなる。 行列の数値計算については、これまでの計算結果を解析し、重力理論(超弦理論)の計算結果とのより詳細な比較を行う予定である。また、BMN行列模型と呼ばれる、これまで解析がそれほどなされていない模型に関しても新たな計算をはじめ、同様にゲージ/重力対応を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度に本研究課題に関連の深い国際研究会の開催が新たに決定された。(例えば(1)"Matrix Models for Noncommutative Geometry and String Theory” ESI, Vienna, July 9 - 13, 2018.(2)"Quantum Gravity meets Lattice QFT” at ECT, Trento, Italy,Sep. 3-7, 2018 等)これらの研究会に出席し研究発表・意見交換を行うことは、研究を進める上で大きな意義があると判断した。そしてこれらの出張にも対応できるように、2017年度の出費を抑え、次年度使用分として回すことに決めた。 次年度ではこの繰り越し分を、出張旅費に加えて、研究会やセミナーといった集会を開くことにも使用する予定である。特に、海外からの研究者の招聘や、他大学からの分野を超えた(特に数学分野の)研究者の招聘に、繰り越し分を充てる予定である。
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Research Products
(9 results)