2019 Fiscal Year Research-status Report
銀河撮像・分光、CMB観測のシナジー解析で探る宇宙のダーク成分
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16K17684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日影 千秋 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (00623555)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宇宙の大規模構造 / ダークマター / ダークエネルギー / 宇宙の構造形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダークマターやダークエネルギーの性質を明らかにするため、銀河撮像・分光観測、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)など異なる観測量を通して宇宙の構造の成長を調べる研究を行った。 1) すばるハイパー・シュプリーム・カム(HSC)の銀河撮像データから重力レンズパワースペクトルを測定、プランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測の結果と比較した。両観測を組み合わせ、標準宇宙模型ΛCDMの妥当性をベイズ統計に基づいて検証し、ΛCDM模型に含まれてない新しい物理機構の可能性について調べた。本研究成果はさまざまな会議や研究会で発表するとともに、学会誌へ記事を寄稿した。 2) 熱的スニヤエフ・ゼルドビッチ(SZ)効果によるCMB温度の非等方性から測定した銀河団のパワースペクトルは宇宙の構造の成長を調べる重要な観測量である。しかし静水圧平衡を仮定して推定した銀河団質量はバイアスされており、正しい質量が分からないことが課題であった。そこでHSCの重力レンズパワースペクトルの測定結果を組み合わせ、銀河団質量の静水圧平衡バイアスを見積もった。その結果バイアスは30%程度あり、流体シミュレーションから示唆されるように非熱的圧力によって銀河団質量を支える機構があることを支持する結果を得た。 3) 銀河分光観測から得られる銀河空間分布の赤方偏移変形は宇宙の構造の成長率を測定するうえで重要な観測量である。しかし重力成長の非線形性によって摂動論に基づく精密な理論予測が困難になる。そこで大スケールの速度場による質量素片の変位を補正する「バリオン音響振動再構築法」を適用することで、ゆらぎの線形性が回復し、摂動論の適用範囲がより小スケールまで拡張できることが分かった。パワースペクトルの1ループ摂動論を理論モデルとして用いた場合、再構築法を適用することで構造成長率の決定精度が大きく向上することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すばるHSCデータの重力レンズ測定とプランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測を組み合わせることで、標準宇宙模型ΛCDMの検証や銀河団質量のバイアスの測定を行った。これらは異なる観測量を組み合わせることで初めてできる研究であり、本研究の目的と合致する。本研究の結果ΛCDMには含まれていない新しい物理が必要となる可能性があり、ダークマターやダークエネルギーの問題解明へとつながる。また銀河分光観測について従来の解析方法とは異なる新たな手法に関する研究を行った。バリオン音響振動の解析で用いられていたゆらぎの再構築法を使うことで、摂動論に基づく精密な理論予測が可能となるとともに、より効率よく多くの宇宙論的情報を引き出すことができる。本研究はすばるPFSなど今後の銀河分光データを用いた宇宙論解析においても有用な手段となる。
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Strategy for Future Research Activity |
異なる観測量を組み合わせダークマターやダークエネルギーの解明へとつながる解析方法の開発と観測データへの応用に取り組む。特にバリオン音響振動再構築法を用いた解析手法を実際の観測データに応用するための研究をさらに推し進める。これまで考慮していなかった銀河バイアスやパワースペクトルの共分散への影響を摂動論と数値シミュレーションを使って詳細に調べ、スローンデジタルスカイサーベイなど既存の銀河データへの応用を目指す。また銀河撮像観測で得られた質量分布に対しても本手法を適用し宇宙論的情報量がどれほど向上するかを調べる。
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Causes of Carryover |
研究打ち合わせのためにニューヨーク Flatiron Institute に出張予定であったが、急遽先方との都合が合わず翌年度に研究打ち合わせが必要となったため次年度使用額が生じた。打ち合わせや研究発表のための出張や、打ち合わせに必要となるノートパソコン等の購入に使用予定である。
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Research Products
(7 results)