2020 Fiscal Year Research-status Report
銀河撮像・分光、CMB観測のシナジー解析で探る宇宙のダーク成分
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16K17684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日影 千秋 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (00623555)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 宇宙の大規模構造 / ダークマター / ダークエネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
すばるHSCの初期観測データを使ったコズミックシア解析を終え、その成果について理論天文学のコミュニティーが集まる理論天文学懇談会において招待講演を行った。また本研究に関する論文は日本天文学会の欧文研究報告論文賞を授与され日本天文学会において受賞講演を行った。HSCのS19Aカタログ (初期カタログの約3倍のデータに相当)を使った解析の準備を進めている。 宇宙大規模構造の観測データから得られる情報を最大限に引き出す手法として「宇宙大規模構造のアンチエイジング」法を開発し、宇宙大構造の数値シミュレーションに基づく検証を行った。宇宙大規模構造の重力成長の非線形過程は伴うモードカップリングの影響で、(1)距離指標となるバリオン音響振動が減衰する (2)摂動論に基づく理論予測が小スケールに行くほど困難になる (3)パワースペクトルのエラーが異なるスケール間で独立でなくなる (4)パワースペクトルのS/Nが下がり、高次の統計量に情報が流出する、など様々な問題が生じる。アンチエイジング法は大スケールの速度場に伴うダークマター流体の位置変化を補正することで重力非線形性を部分的に取り除き線形ゆらぎを回復させる手法である。本年は(3)と(4)の問題に着目した研究を行った。アンチエイジングを施した後のパワースペクトルの共分散行列を摂動論と数値シミュレーションの両面から調べた結果、異なるモード間の相関が弱まり共分散行列が線形(ガウシアン)に近づくことがわかった。またアンチエイジングを施すことでパワースペクトルのS/Nも大きく改善し、取り扱いが困難な高次の統計量を使わなくても、重力理論の検証に重要な構造成長率のパラメターの測定精度が30%近く向上することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すばるHSCのコズミックシア解析の結果は天文業界へのインパクトが大きく、論文の被引用数は210を超え日本天文学会の欧文研究報告論文賞の受賞となった。また宇宙の大規模構造の観測データからより多くの情報を引き出す「宇宙大規模構造のアンチエイジング」の手法の開発も進んでおり、すでに3つの論文を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
すばる初期データのコズミックシア解析から得られた宇宙の構造の成長度合いは、プランク衛星による初期宇宙の観測に基づく測定との間に2シグマ程度の食い違いがあることが分かった。他のコズミックシア観測でも同様の傾向を示しており、今後はその食い違いがどこまで有意か、また、食い違いの原因が何かを突き止める必要がある。そのためすばるHSCの第2期のデータを使いより精度の高いコズミックシア測定を行い、測光赤方偏移などの系統誤差の評価をより精密に行う。またコズミックシアのエラー評価の高速化を進めるとともに、計算コードを一般に公開する予定である。 「宇宙大規模構造のアンチエイジング」法については、摂動論とN体シミュレーションの両面から解析を行い、比較的解析が容易なパワースペクトルからでもより多くの宇宙論情報を引き出せることが分かった。今後は銀河バイアスやショットノイズなど実際の観測にまつわる系統誤差の評価を行うとともに、SDSS/BOSSの観測データへ応用し、宇宙論パラメターの測定を行う。
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Causes of Carryover |
COVID-19パンデミックによる影響のため、研究会、講演、研究打合せは全てオンラインとなり旅費は生じなかった。本年は旅費やノートパソコン等の購入に用いる予定である。
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