2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K17688
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柳 哲文 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60467404)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原始ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のメインテーマは非球対称原子ブラックホール形成である.初年度の第1目標は無衝突粒子系を用いたシミュレーションコードを開発し,物質優勢期に形成される原始ブラックホール形成のシミュレーションを行うことであった.目標の一部は達成され,無衝突粒子系のシミュレーションコードが完成したが,一部予定を変更し,漸近平坦な場合の軸対称シミュレーションとの比較についての成果を学術誌に発表した.これは我々の3次元シミュレーションにおいて,2次元軸対称シミュレーションの場合と定性的に異なる結果が得られたためである.過去に行われた2次元シミュレーションではスピンドル重力崩壊に伴い,物質分布の外側に曲率特異点が形成されることが報告されていたが,我々の3次元計算では曲率特異点は物質分布の内側に密度の発散を伴って現れることが示された.これは軸対称系で報告されている曲率特異点が非軸対称摂動に対して不安定である可能性を示唆しており,時空特異点形成の一般性に関する研究において非常に重要な成果である. 一方,物質優勢期の原始ブラックホール形成に関して,その形成確率と質量分布を半解析的に評価する手法を提案した.これまで物質優勢期の原始ブラックホールの質量スペクトルを計算した例は1例しかなく,その解析が不十分であったが,我々は圧力が無視できるような状況での重力崩壊のダイナミクスを近似的に扱うことのできるゼルドヴィッチ近似という手法とブラックホールの形成条件として知られるフープ予想を組み合わせることによって,半解析的に原始ブラックホールの質量スペクトルを計算することに成功した.結果自体非常に有用であり,今後物質優勢期の原始ブラックホール形成を扱う研究において幅広く引用されると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標であった無衝突粒子系での原始ブラックホール形成のシミュレーションはまだできていないものの,基本的な下準備は終わっており,今後少しの改良で次の成果が期待できる.また,半解析的,近似的な物質優勢期の原始ブラックホール形成率の評価についての成果も出ており,概ね順調といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の一つの大きなテーマは物質優勢期の原始ブラックホールの角運動量分布の評価である.現在角運動量分布について,近似的,半解析的な手法を用いた評価についての研究を進めている.具体的にはダイナミクスはゼルドヴィッチ近似を用いて評価し,初期分布についてはランダムガウシアンを仮定して多変数の確率分布に落とし込む手法である.確率変数についての数値積分は必要となるが,ダイナミクスを数値的に解く必要がなく,比較的簡単に評価できる,優れた手法である.この評価と,数値的な評価を重ね合わせることを今後の目標とする. 数値計算については,現状数値計算において満たされるべき拘束条件式の破れが問題になっている.この破れを抑える手法の開発,導入が必要となる.まずは物質分布を伴わない,真空における非線形重力波の重力崩壊を用いて,この点についての改良を目指す.重力波の重力崩壊はそれ自体重要なテーマとなりえる.インフレーションシナリオでは重力波モードも確率的に生成され,稀に大きな振幅を持つ非線形重力波の初期条件が与えられた場合,それが崩壊してブラックホールを形成する可能性がある.つまり,原始ブラックホール量はスカラー揺らぎだけでなく,テンソル(重力波)揺らぎについての制限も与える.しかし,そのためにはテンソル揺らぎについてのブラックホール形成条件を明らかにしておく必要があり,重力波の重力崩壊はその第1歩となる,先駆的研究である. 今後これらの半解析的計算と数値シミュレーションの改良を同時進行で進めていく.
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Causes of Carryover |
主な理由は計算機の購入金額が予想よりも低く抑えられたことによる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度において複数の研究成果が上がっており,次年度は研究会などでの成果報告に力を入れ,余剰分を使用したい.また,今後の研究の進展によっては新たな計算機資源が必要となる可能性もあり,その場合は計算機購入に充てる.
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Research Products
(15 results)