2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K17689
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
浦川 優子 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (80580555)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インフレーション / 宇宙論的摂動 |
Outline of Annual Research Achievements |
インフレーションは、観測と整合的な宇宙論的揺らぎの予言を与えることにより、初期宇宙の標準シナリオとしての地位を確立した。一方、インフレーション期には、全ての観測可能な揺らぎは、加速膨張により引き伸ばされて大スケールの揺らぎとなるが、このような長波長の揺らぎの蓄積により、原始揺らぎの相関関数は発散する可能性があることが知られている。(赤外発散の問題)この問題は、インフレーションシナリオの予言能力を失わしめる可能性があり、その正則化を議論することは重要である。本研究では、理論がある種の局所性条件を満たしていた場合には、観測量となる揺らぎの相関関数においては、赤外発散が相殺されていることを示した。また、見かけ上の)赤外発散は、QED, QCDなどの他のゲージ理論においてもその存在が知られている。これらの理論における赤外の問題と、インフレーション宇宙において生成される原始揺らぎの赤外の性質の、類似性と相違点の整理をした。(Tanaka, Urakawa 2017)
2012年7月CERNの大型加速器LHCによって、万物に質量を与えるヒッグスボソンが発見された。ヒッグスボソンの質量は、理論のカットオフスケールに比べて非常に小さいことが知られている。この性質を説明する有力な候補は、ミクロな世界を記述する素粒子理論に対して超対称性を要請することであるが、これまでの加速器実験では超対称性の兆候は見つかっていない。そこで、2015年Kaplanらにより超対称性を保持しない模型において、実験から知られているヒッグス質量を自然に説明する模型が提案された。本研究では、この模型に対する宇宙論的制限を議論した。(Kobayashi, Seto, Shimomura, Urakawa, 2017)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要において述べたように、インフレーション宇宙において生成される原始揺らぎの赤外の性質を理解することは、インフレーションの理論研究、現象論研究の双方から重要である。我々の成果により、特にインフレーション宇宙の物理と観測データを結びつける上で重要となる長波長のゆらぎの進化について、非常に一般性の高い性質を明らかにすることができた。
また、本研究課題に応募した際には、予定していなかった研究として、近年提案された階層性問題の新たな解決機構であるリラクシオン機構に関して、宇宙論的見地から検証し、この機構に対する観測的制限を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度行なった研究Tanaka &Urakawa (2017)において、ある種の局所性条件が成立していれば、曲率ゆらぎの保存則、整合性関係など、長波長のゆらぎの性質としてよく知られた性質が保証されることを示した。今年度は、この発展的研究として、具体的に各インフレーション模型を、この局所性条件の成立/非成立および、前出の長波調のゆらぎの性質をあわせて検証することにより、我々が構築した議論の妥当性および有用性を具体的に示す。 この研究は、昨年度行なった研究の、直接的かつ重要な発展研究と位置づけられる。
また、異なる研究として、超弦理論が予言する重い場がインフレーション宇宙に存在した場合の、銀河サーベイによるその新たな検出方法の確立に取り組む。
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Causes of Carryover |
年度末に行った、旅費が想定よりも安価で済んだため。この差額は、翌年度の旅費として計上する。
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