2017 Fiscal Year Research-status Report
低エネルギー普遍性と有効場の理論を用いた閾値近傍ハドロン構造の解明
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16K17694
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
兵藤 哲雄 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (60539823)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ハドロン分光学 / ストレンジネス / 共鳴状態 / 複合性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の新たな課題について成果をあげた。 1)K-中間子と陽子、中性子の3体束縛状態であるK中間子重陽子について、厳密な手法に基づく少数系計算を行いレベルシフトと崩壊幅を評価した。核力およびK中間子核子間力という強い相互作用と、K-中間子と陽子の間に働く電磁相互作用という、到達距離のオーダーが異なる相互作用を同時に扱う必要があるため、これまでは近似的な手法でしか計算されてこなかった。本研究では現実的なK中間子核子間力を用い確率論的変分法で精密3体計算を行うことで、物理量の信頼しうる予言を行った。さらに、異なるアイソスピン成分の相互作用強度に対する結果の依存性を調べ、計画されている実験の精度でK中間子核子間相互作用にこれまで以上の強い制限がかけられることを示した。 2)共鳴状態の内部構造を散乱振幅の解析的性質に基づいて決定する方法を提案した。共鳴状態のエネルギーは散乱振幅の極として表現されるが、極の近くのエネルギー領域にCDDゼロと呼ばれる散乱振幅の零点が存在すると、共鳴状態の起源はそのチャンネルにないことを示した。散乱振幅が解析的に解ける有効場の理論の模型の具体例を示すとともに、散乱振幅のトポロジカルな性質を用いた一般的な証明も与えた。観測量に与える影響として、CDDゼロの存在が共鳴状態のスペクトルをBreit-Wigner型から歪めることを示した。この結果の適用範囲は特定のハドロン系に限定されておらず、極と零点の位置は実験データの詳細な解析から原理的に決定できるため、様々な応用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カイラル有効場の理論に基づいて構築されたK中間子核子間相互作用ポテンシャルの応用として、昨年度のK中間子原子核(強い相互作用で7体系まで)に引き続き、K中間子原子(強い相互作用および電磁相互作用を含む3体系)の計算を行った。有効場の理論の結果を相互作用ポテンシャルの形にすることで、少数系計算の手法と組み合わせて様々な系への応用が可能であることを実際に示すことができた。K中間子重陽子の精密計算で得られた結果は、国内外の実験施設で測定が計画されている今後の実験データの解析において重要な指針となりうる。ハドロン構造の解明については、CDDゼロの位置を用いた議論を行うことで、昨年度の弱束縛関係式に基づくものとは異なる観点から手法を提案することができた。昨年度の手法の応用範囲がs波共鳴で閾値に近い状態に限られていたのに対し、新しい手法では共鳴状態は閾値の近くに存在する必要はなく、他の部分波の状態についても議論できるため、手法の適用範囲を広げることができた。ハドロン構造を観測可能量から決定するという本課題の目標に沿って研究が進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は有効場の理論を用いて以下の課題に取り組む。 1)以前カイラル有効理論に基づいて構築した1チャンネルK中間子核子間相互作用ポテンシャルは、これまでに閾値に近い領域の様々な系に応用されたが、閾値から離れたエネルギー領域では他のチャンネルの効果が重要となる。そこで適用範囲を広げるために、pi Sigmaおよびpi Lambdaチャンネルを陽に含むチャンネル結合形のポテンシャルを構築し、Lambda(1405)共鳴の構造を議論する。 2)低エネルギー普遍性の発言する具体的な系として、現在実験でも盛んに議論されているヘビークォークを含むハドロン系を考慮し、様々なハドロン分子的なエキゾチック構造が現れる機構を明らかにする。分光学的な分類だけでなく、生成過程、崩壊過程などを考慮して観測可能量と構造との関係をより詳細に明らかにする。
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Causes of Carryover |
計画していた支出のうち、物品費はほぼ予定通りに使用したが、国内出張をいくつか先方負担で行うことができたので、旅費に少額の剰余が生じた。今後の使用計画としては、国内旅費に充てる予定である。
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