2017 Fiscal Year Research-status Report
温度の異なる高温QCD物質とボトムクォークとの結合の強さの測定
Project/Area Number |
16K17701
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
下村 真弥 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (70555416)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 重いクォークのv2 / ハドロンのv2 / QGP |
Outline of Annual Research Achievements |
PHENIX実験で2014年に取られた膨大な量のデータ解析が終わり、当初の目標だったボトム(b)からくる電子のv2とチャーム(c)からくる電子のv2を測定することに成功した。このプレリミナリーな結果をPHENIX実験の正式な結果として2018年5月に行われる国際学会QM 2018で発表する予定である。結果は、bクォークからからくる電子も有限なフローを示唆しており、その大きさは、u,dなどのクォークに比べると低い。また、cクォークに比べても系統的に低めに見えている。bクォークのv2測定自体がRHICで初めての結果で、クォークの重さによってQGP物質との相互作用の強さが小さくなるということを裏づける非常に重要な結果になる。現在は大きめの誤差をつけているが、今後論文を出版するに当たり、バックグラウンドの見積もりについてシミュレーション等を利用して詳細に行うことで誤差を減らせる部分があると考えている。また、昨年度から引き続き行なっている軽いクォークを含むハドロンv2の精密測定についても、新しくインストールしたシリコン検出器を利用することで、反応平面測定を今までより高い分解能で行うことに成功し、さらに精密に測定することができた。この結果を申請者が国際学会(Multi Parton Interaction 2017)でPHENIX実験の代表として発表した。また、さらにこの結果とこれまでの運動量スペクトラ解析とを組み合わせて、「ハドロンのQGP中でのエネルギー損失量が通過する距離にどのように依存するか」と言うQGPの性質が直接測れる解析を進めている。 ALICE実験では、LHC最高エネルギーの核子対あたり重心系エネルギー15TeVでの陽子陽子衝突におけるcとbを区別しない収量分布を測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
PHENIX実験で2014年に取られた膨大な量のデータ解析が終わり、当初の目標だったボトム(b)からくる電子のv2とチャーム(c)からくる電子のv2を測定することに成功した。申請者の担当ではないトラッキングのアルゴリズムの最適化に予定以上に時間がかったことと、PHENIX実験グループが大きいため、全てのデータが解析に使える状態にするために他の検出器の基本的な校正が終わるのを待たなくてはならず、それに予定以上の時間を要した。また、新しく導入した反応平面の分解能が良いシリコン検出器に安定性の問題があり、それを問題ないレベルにまで校正するのに、時間と労力がかかった。3月中旬にほぼ全てのデータが解析に使える状態になったため、それまでに校正・計算をして準備しておいた分解能のよい反応平面の情報を使って、プレリミナリーな結果を短期間で出すことができた。 それを我々の分野では非常に権威のある国際学会クォークマター2018にPHENIXの正式な結果として共同研究者が発表する。また、副産物的に得られ、同時進行で進めていた軽いクォークの高い運動量までの詳細なv2測定についても、そこからさらにQGP中を通過する距離にどのように依存するかを検証しており、昨年度に引き続き、新たな指導中の修士学生がその内容について物理学会で報告を行なった。ALICE実験での解析においては、申請時に予想していた以上に、実験グループに入り込み情報を得たり、共同研究者と解析を一緒にしたりすることが困難なためと、PHENIX実験のデータ解析が予定以上に時間がかかったため、ALICE実験においては、まず重クォーク測定チームに入り、陽子陽子衝突における重クォークの収量測定を行った。これにより、重クォークの測定に関するテクニックと情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回プレリミナリーな結果を出すことができたボトム(b)からくる電子のv2とチャーム(c)からくる電子のv2は、非常に重要な結果を得られたと考えている。まず、今回保守的な誤差をつけたバックグラウンドの見積もり方を見直し、ベイズ推定による方法やシミュレーションから見積もる方法を試して、より誤差を小さくできる予定である。その結果を論文として出版する。さらに現時点では、測定できているのはcやbからくる「電子の」v2なので、これを有限のv2をもつcクォーク、bクォークを含むハドロンの崩壊をシミュレートして電子のv2を求め、それを現在の測定結果と比較することで、インプット(クォークのv2)を修正してシミュレーションをし直し、最終結果が実験結果と合うまでイタレーションを繰り返すことで、cクォーク、bクォークがハドロン崩壊時に持つv2を求めるシミュレーションを開発する。これは、成功すれば、軽いクォークのv2と直接比較ができ、現在考えているクォークのv2がクォークの重さによって変わり、重い方がv2は小さいという仮定の真偽を結論づけられる非常に重要な結果となりうる。同時に軽いクォークについて、高い運動量をもつパートンがQGP中でどのように飛行距離に依存してエネルギーを落とすかをv2測定から距離に焼き直して見積もることを進める。この解析は、QGP状態の幾何学的な大きさや形をモデルを利用して仮定する必要があるが、最初は広く使われているグラウバーモデルを使うことを検討しており、この結果も論文にまとめる予定である。ALICE実験については、まだまだ時間はかかりそうではあるが、徐々に情報も集まりつつあり、また組織にも入れてきているので、引き続きアリス実験の韓国やフランスや中国等の共同研究者達と協力しながら、まずは軽いv2の測定をこれまでとは違う新軸を導入して測定することを計画している。
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Research Products
(28 results)