2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17706
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 講師 (50531779)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 宇宙物理 / 連星中性子星 / 重元素 / 数値相対論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究計画に従い、中性子星‐中性子星連星合体の、3次元数値相対論ニュートリノ輻射流体シミュレーションを行った。合体時に放出される物質の総量、熱力学的・化学的特性が、状態方程式および連星パラメータにどのように依存するのかを明らかにするために、3種類の状態方程式(SFHo, DD2, TM1)と、2種類の連星質量比(太陽質量の1.35倍と1.35倍(1.35-1.35モデル)、1.25倍と1.65倍(1.25-1.65モデル))を採用した。 合体後の長時間進化を明らかにするために、DD2状態方程式の1.35-1.35モデルに対して、空間3次元のシミュレーション結果を空間2次元軸対称のグリッドに張り替え、これまでの研究では考慮されていなかったニュートリノ対消滅を組み入れた数値相対論輻射流体シミュレーションによって追跡した。 空間3次元のシミュレーションの結果、いずれの状態方程式においても、連星質量比が等質量からずれるほど、潮汐相互作用による質量放出が卓越し、その結果、放出物質は、衝撃波などの過熱過程を経ない、低温かつ中性子過剰率の高い中性子星物質の性質を持つことをこれまでにない定量性で明らかにした。このような中性子過剰の放出物質における元素合成過程では太陽近傍で観測されている重元素組成パターンが再現されない可能性がある。 グリッドを張りかえた空間2次元軸対称の長時間シミュレーションでは、これまで考慮されていなかったニュートリノ対消滅の効果によって、放出物質の質量および運動エネルギーが2倍程度に増加することを明らかにした。一方、放出物質の中性子過剰率へのニュートリノ対消滅の影響は小さい。放出物質の総量は、重元素の起源を解明する上での主要パラメータであるが、本研究によって、ニュートリノ対消滅の重要性が初めて明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の計画を遂行できたことに加えて、平成29年以降の研究計画で用いる予定の一般相対論的ニュートリノ輻射粘性流体シミュレーションコードの構築、テスト計算、並列化を行うことができたため。 現実の中性子星は強い磁場を有しているため、長時間の進化過程では、磁場によって駆動される角運動量輸送や質量放出過程を考慮する必要がある。これらの過程を定量的に精確に評価するためには、空間が3次元であること、および様々な(磁気)流体不安定性の成長モードを分解するのに十分な高解像度が必要となる。しかしながら、計算機資源の制約から、そのような長時間計算は困難である。 長時間進化の追跡のために1つの解決策として、必要な物理過程を粘性の形で組み入れた、空間2次元のシミュレーションを行うことが挙げられる。そこで、粘性を考慮した、一般相対論的ニュートリノ輻射流体シミュレーションコードの構築し、テスト計算と並列化までを行うことができた。 次年度の研究計画では、本シミュレーションコードを用いる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画は順調に進行している。当初の計画通り、次年度の研究計画では、本年度に得られたシミュレーション結果を流体背景場として、r過程元素合成計算を研究協力者と共同で行う。ただし、ニュートリノ対消滅を考慮した数値相対論シミュレーションを行う際には、以下の点に留意する必要がある。 本年度の研究によって、中性子星連星合体における質量放出において、ニュートリノ対消滅過程が従来一般的に想定されていた以上に重要な役割を果たすことが明らかとなった。ニュートリノ対消滅過程を定量的に正しく取り扱うためには、ニュートリノ輻射の運動量空間分布が重要となるが、現状のコードで採用しているモーメント法に基づく輻射流体スキームでは、運動量空間で積分しているため、分布依存性を取り扱うことができない。 そのため、物理的に妥当な帰結を導くためには、ニュートリノ対消滅の効果の上限を抑えることが重要となる。そこで、上限を与える場合、すなわち、運動量空間分布が等方的であると仮定した場合についても調べることとする。等方的運動量分布を仮定した計算は本年度もすでに行っているが、次年度以降も継続して行っていく。
|
Causes of Carryover |
本年度に配分された使用額では、シミュレーションコードの構築、テスト計算、データ解析で必要とされるスペックの計算機を購入するのには足りなかったため。次年度の配分額と併せて、必要スペックを有する計算機を購入する。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の配分額と合算し、CPU Xeon E5-2697 および メモリ 128GB 搭載のハイパフォーマンスワークステーションを購入して、シミュレーションコードの構築、テスト計算、データ解析に用いる予定である。
|
Research Products
(5 results)