2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17706
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 講師 (50531779)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 重力波 / 連星中性子星 / 重元素 / 数値相対論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究課題の実施中の2017年8月17日に、連星中性子星の合体からの重力波GW170817が初めて観測された。同時に世界中の望遠鏡・天文観測衛星による追観測が行われ、ガンマ線から電波に至る広い波長域で電磁波対応天体が観測され、合体に関する豊富な知見がもたらされた。特に、可視・赤外域では、本課題の主要研究テーマである「重元素の合成(rプロセス元素合成)」の際に生じる核反応崩壊熱をエネルギー源とする「キロノバ/マクロノバ」と整合的な突発的天体現象が観測された。 そこで、本年度の研究では、前年度までの数値相対論シミュレーションの結果を用いて、GW170817に付随した「キロノバ」のモデル化を主に行い、我々の数値相対論シミュレーションの予測でよく説明できることを明らかにした。つまり、合体時に太陽質量の1%程度の中性子過剰物質が放出され、その中で速い中性子捕獲によって幅広い質量数の重元素が合成され、その後不安定重原子核の崩壊熱によって輝く、とするシナリオと定性的のみならず定量的に整合的であった。本研究結果は Physical Review D Volume 96, Issue 12, id.123012 に発表済みである。 加えて、本年度では、昨年度までの連星中性子星の合体の瞬間に注目した研究を発展させ、合体後の長時間進化を対象にした数値相対論シミュレーションを行った。中性子星同士の合体は数十ミリ秒という非常に短いタイムスケールで起こるが、合体後には中心に原始中性子星と降着円盤の系が残り、さらに長時間(1秒以上のタイムスケール)に渡り、ニュートリノ放射や粘性によるウィンドやジェット状の質量放出が続くことを明らかにした。詳細は論文 (Fujibayashi et al. 2018, ApJ 掲載予定; arXiv:1711.02093) に発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
幸運なことに、史上初めての連星中性子星合体からの重力波GW170817が研究課題遂行中に観測された。同時に行われた電磁波観測、特に可視・赤外域の観測と、我々の数値相対論シミュレーションの予測を符合することによって、連星中性子星合体を「重元素の起源」とする仮説の正当性を検証することができた。 また、昨年度までの研究を拡張し、合体前から合体後数秒程度までの一連の過程に対する一貫した数値相対論シミュレーションに成功した。今年度のこの研究により、連星中性子星合体におけるrプロセス重元素合成を詳細かつ包括的に議論し、今後その数が増えていくと予測されるキロノバの詳細な観測と定量的に比較することが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
連星中性子星合体GW170817では、中性子星の状態方程式にも強い制限が与えられた。結果を1.4太陽質量の中性子星半径に焼き直せば、真の状態方程式は 13km 以下となるような中性子星構造を与えるものでなければならないことが示唆されている。GW170817に付随する電磁波放射からも、間接的ながら状態方程式の制限が得られている。前年度までの数値相対論シミュレーション結果に照らせば、真の状態方程式は2太陽質量を有意に超える球対称中性子星の最大質量を与えるものでなければならないことが示唆される。 これに対し、従来用いられてきた中性子星状態方程式は、より大きな半径を与えるものか、最大質量が2太陽質量程度のものに限られていた。連星合体が状態方程式に強く依存することを鑑みれば、GW170817の観測が示唆する状態方程式を用いてGW170817のより詳細な描像を明らかにすることは重要な課題として残されている。そこで、今後の研究における主要課題は、GW170817の観測結果が示唆する中性子星状態方程式を用いた数値相対論シミュレーションを行うことである。 現時点で発表されている状態方程式の中で、上述のGW170817の観測が示唆する制限に合致する唯一のものは、2017年に富樫らによって構築された状態方程式のみである。この状態方程式は、従来の相対論的平均場近似による状態方程式と異なり、3体力も考慮した現実的核力から出発しクラスター変分法に基づいて(GW170817の論文発表前に) 構築されたものであるにもかかわらず、GW170817が示唆する制限を満たすという点、近年の原子核実験からの制限とも合致するという点でも有力な中性子星状態方程式といえる。すでに状態方程式の組みは完了しており、今後シミュレーションを実行していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度の予算と合算して Xeon Scalable シリーズCPU搭載のハイパフォーマンスワークステーションを購入して、シミュレーションコードの構築、テスト計算、データ解析等に利用する予定である。
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Research Products
(10 results)