2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K17706
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (50531779)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 重力波 / 元素合成 / 数値相対論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、新たに開発した数値相対論粘性流体計算コードを用いて連星中性子星合体の数値相対論シミュレーションを行い、従来行ってきた合体時の物質放出過程に加えて、連星合体後に形成される大質量中性子星系からの物質放出過程について詳細に調べた。必要かつ重要となる粘性係数については、数値相対論的磁気流体コートを用いたシミュレーションによって詳細に調べた結果を用いた。この結果については、Physical Review D 97, 124039 (2018) に発表済みである。 その結果、合体直後の動的時間スケールの物質放出過程に加えて、粘性加熱による長時間スケールの物質放出が起こること、後者が質量においてより卓越することを明らかにした。長時間スケールの放出物質の熱力学特性についても調べ、動的スケールの放出物質に比べて中性子過剰度が低いことを明らかにした。これは、長時間ニュートリノの照射に曝されるために、弱い相互作用によってレプトン数が変化するためである。 両者の結果を組み合わせることで、物質放出過程の包括的な描像を明らかにした。この研究の結果は、The Astrophysical Journal, 860, 64 (2018) に発表済みである。本研究結果は、連星中性子星の合体では、合体時に太陽質量の数%程度の中性子過剰物質が放出され、その中で速い中性子捕獲が起こって幅広い質量数の重元素が合成され、その崩壊熱によって明るく輝いているとする「キロノバ」のモデル化に用いられ、その結果は GW170817 の観測結果をよく説明することに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数値相対論粘性流体シミュレーションによって連星中性子星合体の物質放出過程の全体像を明らかにし、その結果が精緻な元素合成計算および光赤外線放射の予言の構築に貢献したこと、その予言が観測研究において重要な役割を果たし、また観測結果と整合的であったことから、現在までの研究はその方向性も含めて概ね順調に進展していると評価できる。 一方で、前年度時点で計画していた、史上初の重力波イベントGW170817の結果が示唆するような中性子星状態方程式を考慮した数値相対論シミュレーションを完遂することはできなかった。合体ダイナミクス、放出物質の性質および元素合成結果が中性子星状態方程式に依存することは明らかとなっており、連星中性子星合体からの重力波の観測結果が示唆する状態方程式を採用することは重要であり、今後もこれを推進していく。
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Strategy for Future Research Activity |
連星中性子星合体GW170817では、中性子星の状態方程式に、研究会格闘書に想定していたよりも強い制限が与えられた。この制限は解析によってアップデートが行われており、現時点では、真の中性子星状態方程式は、太陽の1.4倍の質量を持つ中性子星の半径が12km以下となるような中性子星構造を与えるものでなければならないことが示唆されている。 重力波観測装置の改良を経て、2019年4月よりO3と呼ばれる観測が始められており、今後も中性子星の状態方程式に対するさらなる制限が加わるものと期待される。そこで、今後の研究の推進方針として、重力波観測の結果が示唆する中性子星状態方程式を用いた数値相対論シミュレーションを行うことである。 また、当初計画における想定に比べて、合体の瞬間そのものよりも、合体後の系からの質量放出およびその両者の相互作用の重要性が高いことが明らかになってきているため、合体後の長時間進化を追跡することが必要である。これは本年度の研究ですでに着手している点であり、今後も継続して研究を推進する。 一方、当初想定に入れていたブラックホール-中性子星連星合体については、重力波観測から評価された合体率からすると、その頻度は低いと予想されるため、今後の進展を中止しつつも、連星中性子星合体に注力することにする。
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Causes of Carryover |
2018年度は、外部計算機リソースの利用が可能であったため、データ解析に必要なハイパフォーマンスコンピュータの購入を見送り、性能上昇が見込まれる翌2019年度に購入する計画としたため、次年度使用額が生じた。2019年度は、スペックとして、CPU: 28Core Xeon E5-2690 2.6GHz, Memory:128GB 相当のハイパフォーマンスコンピュータを購入する計画である。
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Research Products
(7 results)