2017 Fiscal Year Research-status Report
超弦理論における標準模型の導出―ブレーンの構造と素粒子の対称性―
Project/Area Number |
16K17711
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
柴 正太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 博士研究員 (40724993)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超弦理論 / M理論 / ブレーン / カレント代数 / 繰り込み群 / イジング模型 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
超弦理論では、ブレーンと呼ばれる、高次元時空において重力と電磁気力を発する存在が重要な役割を担っていることが知られている。このブレーンは、我々が認識できる4次元時空の素粒子理論である標準模型を、超弦理論から導出する上でも大きな役割を果たすと考えられている。私は、ブレーンのダイナミクスを深く理解し、ブレーンが作る構造をよく知ることによって、標準模型を再現するシナリオが構築できると考えている。
しかし、ブレーンのダイナミクスを解析する具体的な方法は、場の量子論か行列模型の手法しか一般的には知られておらず、充分な解析が行われてきたとは言い難い状況であった。そこで私は、OISTの菅原寛孝教授と共に、E_11対称性を持つカレント代数を用いて、超弦理論を11次元時空において記述するM理論のブレーン(Mブレーン)のダイナミクスを解析する、新しい手法を開発した。それによって、Mブレーンが作る構造について、新たな見方を提案することができた。特に、Mブレーンが(標準模型の)4次元世界を作る解を、この手法によって発見することができた。この解は既知の解と異なる性質を持っている可能性があり、今後も研究を継続していく。
一方で、標準模型においても、様々な次元の世界で定義される場の理論においても、ダイナミクスを捉える上で重要だと考えられている概念の一つに、繰り込み群がある。私は、KEKの磯暁教授、横尾純斗氏と共に、この繰り込み群と最近注目を集めている機械学習との関係を明らかにする研究を始めた。今年度は2次元イジング模型に焦点を当て、イジング模型の繰り込み群と機械学習に現れる現象の関係を明らかにした。特に、入力された情報の特徴を抽出する(重要でない情報をそぎ落とす)役割を果たすと考えられている、制限ボルツマンマシンが、イジング模型のスピン配位を学習する様子を、繰り込み群と対応させて記述することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、ブレーンのダイナミクスを解析するための新たな視点や手法を提案することが、着実にできていると考えられる。今年度は特に、M理論のブレーンのダイナミクスを記述する、カレント代数を用いた新しい定式化を提案することができた。
それに加えて、標準模型のみならず、様々な次元の世界で定義される場の理論において、ダイナミクスを捉える上で重要と考えられている、繰り込み群の概念を、最近注目を集めている機械学習と結びつけて理解する、新たな手法を開発することもできた。
両者ともに、当該研究課題を進め、発展させる上で大きな意味を持つ成果であると考えられるため、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該研究課題の最終年度となる次年度は、M理論と並んで超弦理論の優れた記述法として知られている、F理論に焦点を当て、F理論におけるブレーンのダイナミクスを記述する方法を提案していく予定である。
従来、M理論とF理論の関係は若干間接的に記述されており、M理論のブレーンとF理論のブレーンの関係もまた若干間接的にしか理解されていなかった。しかし、前年度の成果であるブレーンの集合運動を記述する手法や、今年度の成果であるE_11対称性を持つカレント代数を用いてブレーンのダイナミクスを記述する手法は、これらのブレーンの関係を直接記述できるものであると考えられる。従って、今年度までの成果を土台にして、F理論におけるブレーンのダイナミクスを記述する手法を提案することは充分に可能であり、また超弦理論におけるブレーンの振る舞いを理解する上で重要な意味をもたらすと期待できる。
当初の計画では、F理論を考えることの意義として、F理論のブレーンの系がE_n対称性を自然に持つことを挙げていた。何故なら、宇宙初期における素粒子を記述するには、大統一理論の立場から、E_n対称性(nは正の整数)に注目することが重要だと考えられるからである。ただ、今年度までの研究で、M理論のブレーンの系もE_11対称性を持つカレント代数と深く関係していることが明らかになった。従って、次年度の研究の一部として計画していた、M理論とF理論をE_n代数を通して繋ぐ議論は、既にある程度完遂しているものと考える。その上で、M理論・F理論におけるブレーンのダイナミクスと、標準模型における素粒子の振る舞いを繋ぐ議論を深めることに、さらに力を注いでいく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度末に沖縄に出張して研究打ち合わせをする予定だったが、次年度に延期になったため、旅費として5万円ほど繰り越すことになった。繰り越した分は、同じ目的で次年度の夏までに使用する予定である。
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