2017 Fiscal Year Research-status Report
MAXI-NICER連携で解き明かすX線スーパーバーストにおける元素合成
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16K17717
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岩切 渉 国立研究開発法人理化学研究所, MAXIチーム, 基礎科学特別研究員 (50749918)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | MAXI / NICER / スーパーバースト |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の知る鉄より重い重元素の中には、陽子過剰な同位体が存在しており、そのような重元素を作る過程として、陽子捕獲とβ+崩壊を繰り返す速い陽子の捕獲過程(rapid proton capture process: 以下rp過程)が考えられており、その発生場所として低質量X線連星で発生するX線バーストが候補とされている。我々は現在国際宇宙ステーション(ISS)で稼働中である理研のMAXIと、ISSに新たに搭載されるNASAのNICER望遠鏡を、ISS内のネットワークで繋げることにより、頻度は少ないが継続時間が通常のX線バーストより1000倍ほど長いスーパーバーストの詳細観測を目指している。本年度は、6月にNICERが無事ISSに設置され、運用が開始された。我々は、前年度からMAXIが見つけた突発天体に関する緊急ToO(Target of Opportunity)観測に関して議論を重ねていたおかげで、NICERの運用開始直後の7月18日には、MAXIがはえ座の恒星GT Musからの巨大フレアを捉え、NICERによるToO観測を成功するに至った。その後、連絡系統の調整などを議論して、翌年3月までにMAXIが発見した突発現象に対するNICERのToO観測の発動に9例成功した。スーパーバーストはNICER打上げ後に発生していないものの、MAXIはこれまでにスーパーバーストを年に1-2イベントを捉えているので、来年度での検出が期待される。また、MAXIで過去に捉えたEXO 1745-248からのスーパーバーストの約2日後に取得されていたRXTE衛星のX線データから、等価幅の強い輝線構造を発見し、さらに数時間でその強度が減衰していくことを発見した。この輝線構造と減衰の解釈として、rp過程によって作られた不安定核の関連が考えられる。これらの結果を研究会で発表し、現在投稿論文としてまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行のためには、NASAのX線観測装置NICERが無事打ち上げられ、ISSに取り付けられることが必須である。幸い2017年6月に、NICERは無事に観測を開始でき、それに伴ってMAXIとの連携観測も本格化し、実際8ヶ月の間に9例のMAXIで見つけたX線突発現象に対するNICERの追観測に成功している。初期の段階では、MAXIの検出後、NICERの観測開始まで1日ほどかかっていたが、この状況を改善するためにNASAゴダード宇宙飛行センターに実際に赴き、PIのKeith Gendreau博士や地上局の担当者らと直接議論を行って問題点の洗い出しをした。これらの問題点に対して改善を進め、現在のところ約6時間後にNICERの観測を開始するところまで至っている。来年度にはさらに改良を進めていけば、1時間以内での追観測が可能となると考えている。NICERの打ち上げ後に、残念ながらスーパーバーストは発生していないため、NICERによるスーパーバーストの高感度観測を実施するという目的を達成できてはないが、今年度は十分その下地作りを終えることができたという点で、最低限の成功基準は満たせていると考えている。また、過去にMAXIが捉えたEXO 1745-248のスーパーバーストの発生の約2日後にRXTE衛星によって得られたX線スペクトルから、強い輝線構造を発見した。この起源は、その等価幅の大きさと、スペクトル中に吸収端構造が見られないことから、中性子星周囲の冷たい降着円盤からの反射成分では説明できない。さらに、わずか2000秒の間に、輝線の強度が有意に減衰していることがわかり、rp過程によって生成された不安定核が関連している可能性が有り、現在研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、より早く(2分程度で)突発天体のX線帯域での高感度観測を実現するために、MAXIとNICERをISSの内部のノートPCを介してつなぐOHMAN(On-orbit Hookup of MAXI and NICER)計画を進めていくことがまず重要となる。昨年度は、ISAS/JAXAの小規模プロジェクトの予算を用いてMAXI側のISS軌道上でのアラートソフトウェアの準備を行った。今年度はNICERチームと協力し、NASA側の予算獲得を目指し、NICER側のネットワーク整備を進めていく。さらに並行して、引き続き地上経由でのMAXI-NICER連携による突発天体観測計画も推進して、スーパーバーストの詳細なX線スペクトルの取得を目指す。具体的には、従来用いていた地上でのMAXIトリガーソフトウェアを、スーパーバーストや恒星フレアに最適化して修正、改良を行い、より多くの突発現象を正確に素早くNICERチームに伝達できるような観測体制の枠組みを構築していく。スーパーバーストの早期観測が成功した場合は、即座にデータ解析を行い、論文として発表を行う。また、過去に取得された観測データも、新しい視点から見直していく。これまでのMAXIの観測から、定常放射がほとんど見られない低質量X線連星でもスーパーバーストが発生することがわかり、その場合減衰していくスーパーバーストの成分が定常放射に埋もれて観測されなくなるまでに時間がかかるため、よりスーパーバーストの光を捉えやすくなる。そのため、過去のRXTE衛星やSwift衛星によるスーパーバースト発生後の観測データを再度見直していき、rp過程によってできる元素の兆候が見られないか、解析を行っていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、大きくは2016年度内に打ち上げ予定であったNICERの打ち上げが、2017年度6月にまでずれ込んだためである。そのため、計画全体が当初の予定より1年ほど遅れている。前年度において、地上経由でのMAXIとNICERの突発天体が発生した際のネットワーク整備を行っているため、今年度はより早く突発天体に対して対応が可能となっており、スーパーバーストの観測に成功した際にはすぐに解析及び議論を進められるようNASAゴダード宇宙センターに赴いて結果をまとめていく。また、MAXIとNICER連携をより早くするための議論や、OHMANに対する議論を進めるための渡米費用に主に助成金を使用する。より早く正確にMAXIでの突発天体を検出するため、GPUを搭載した計算機を購入し、機械学習を用いた新たな検出アルゴリズムの開発も視野に入れる。さらに、過去のスーパーバーストの観測データを論文にまとめ、誌上発表や国際会議等で発表してさらに議論を深めていく。
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Research Products
(7 results)