2016 Fiscal Year Research-status Report
強相関電子系における光誘起相転移の電子ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
16K17721
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 辰也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (40755724)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光物性 / 光誘起創転移 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
強相関電子系の物質では、超高速・高効率の光誘起相転移現象が見出されており、将来の光スイッチングデバイスへの応用が期待されている。また、学術的にも、新しい非平行物理学のトピックスとしても注目を浴びている。本研究では、これまで自作してきた非同軸パラメトリックアンプ(NOPA)を改良し、高時間分解能のポンプ―プローブ分光を行うことによって、強相関電子系物質の光誘起相転移の初期電子応答の実時間観測を行うことを目的とした。 NOPAを改良することによって、パルス幅6.5fsの可視超短パルス光を得ることに成功した。この超短パルス光を利用したポンプ―プローブ分光測定を、一次元モット絶縁体である塩素架橋Ni錯体[Ni(chxn)2Cl(NO3)2]に適応した。励起子遷移を励起した後のブリーチング信号を反射率変化として測定することによって、励起子生成の初期電子過程を実時間観測することができる。得られた反射率変化の時間発展には、4つのコヒーレント振動モードが重畳することが分かった。 2つはラマン散乱スペクトルから得られた振動の周波数と一致することから、フォノンによるものであることが分かった。これらに関しては、励起状態を安定化させるために格子が歪み、それにともなってコヒーレント振動が生じたものであると考えられる。残り2つのモードに関しては、一光子許容励起子と一光子禁制励起子の状態間・一光子許容励起子と連続状態の下端の状態間の量子振動であることが予想された。つまり、励起子生成直後には異なる状態が重なり合っている状態となっているため、状態間の干渉が生じ、結果的に反射率変化に振動構造が現れるということである。 このように、高時間分解能のポンプ―プローブ分光測定を行うことによって、一次元モット絶縁体での励起子生成の初期電子過程を明らかにしたことが、本研究の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NOPAを改良することによって、パルス幅6.5 fsの可視超短パルス光を得ることができた。それを利用することによって、一次元モット絶縁体における励起子生成の初期電子過程を実時間観測することに成功した。この研究によって、励起子状態を安定化させるための格子歪を明らかにすることができた。また、励起子生成直後は、幾つかの量子状態の重ね合わせとなっており、それらの間の量子干渉が生じることが新たに分かった。このように、高時間分解能のポンプ―プローブ分光測定系を整備でき、実際に一次元モット絶縁体の励起子生成の初期電子過程を明らかにできたので、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、有機電荷移動錯体TTF-CAの光誘起中性→イオン性転移の初期電子応答の実時間観測を目指す。光誘起中性→イオン性転移は近赤外領域にあるCT遷移の励起によって生じる。そのため、NOPAのアイドラ光を利用して、近赤外超短パルス光を利用したポンプ―プローブ分光測定系を構築する。可視光領域にあるTTFの分子内遷移はTTFからCAへの電荷移動量の変化に対し敏感に変化するため、可視光パルスの反射率変化を測定することによって、光誘起中性→イオン性転移の電子ダイナミクスの情報が得られる。特に、光励起後20 fsまでの時間領域で生じる多重電荷移動の実時間観測を目指す。また、イオン性相に転移した場合、対称性の破れが生じる。そのため、中性相を光励起すると、一光子禁制である偶対称性のCT遷移が、一光子許容である奇対称性のCT遷移の高エネルギー側に現れると予想される。そこで、近赤外光をプローブ光に用いることによって、光誘起中性→イオン性転移における対称性の変化の情報を得る。また、光誘起イオン性→中性転移に関しても同様の測定を行い、光誘起中性→イオン性転移の場合と比較して、多重電荷移動の効率の違いを明らかにする。更に、他の有機電荷移動錯体において系統的な測定を行うことにより、誘電性の違い(強誘電・反強誘電・量子常誘電など)による光誘起中性―イオン性転移の初期過程の違いを明らかにする。
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