2017 Fiscal Year Research-status Report
分子ダイマー構造が創出する新奇な電気磁気効果の開拓
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16K17731
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中 惇 早稲田大学, 高等研究所, 講師 (60708527)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マルチフェロイクス / 有機導体 / 分子性固体 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子性固体における新規な電気磁気現象の開拓を目的として、以下の研究を行った。1) κ型BEDT-TTF塩において従来議論されてきた金属相と反強磁性モット絶縁体相に加えて、強誘電電荷秩序相を考慮した基底状態相図を変分モンテカルロ法により調べた。その結果、電荷秩序相と反強磁性モット相の中間に出現する金属相においては、スピン揺らぎに比べてダイマー内の電気双極子揺らぎが大きく発達することを明らかにした。これはκ型BEDT-TTF塩における超伝導発現の微視的起源を再考察する必要性を示唆する結果である。この成果はJournal of the Physical Society of Japan誌にLetter論文として掲載された。2) 水素結合を有する分子性ダイマーモット系κ-H3(Cat-EDT-TTF)2を対象として、基底状態ならびに励起状態におけるプロトン-電子間相互作用の効果を包括的に調べた。ダイマーモット系の光学スペクトルに見られる典型的な二つの電子励起(ハバード励起とダイマー励起)のエネルギーが、プロトン-電子結合と量子的なプロトン・トンネルによって大きく変化することを見出した。これは水素-電子間相互作用の大きさを実験的に見積もるための一つの有力な手段を与える。この成果を論文にまとめて投稿した。また、この物質の特異な量子液体状態の発現には、水素結合内のプロトン(電荷)揺らぎが重要な働きをすることを実験系研究者と共同研究により明らかにした。この成果はNature Communicationsに掲載された。3) 固体酸素の電気磁気現象の研究を開始した。分子軌道自由度ならびに分子回転自由度を取り入れた有効モデルを構築し、固体酸素における磁場効果と光学応答の解析に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従って、ダイマーモット系における磁性・誘電性について、平均場近似を超えて強相関効果を取り入れた数値解析を行い、強誘電相・反強磁性相近傍の相関金属相の性質について新たな知見が得られた。また、水素結合を含む分子性導体におけるプロトン揺らぎの効果を調べることで、プロトン(電気双極子)と電子スピン(磁気双極子)が量子的にもつれ合った新規量子液体状態の起源を提案した。さらに、新たな分子性固体(固体酸素)の研究にも着手できた。これらの成果は、分子性固体における電気磁気現象の理解と発展に寄与するものであり、おおむね順調な研究状況であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
固体酸素において報告されている多彩な相競合と空間反転対称性破れの微視的な起源を、群論的考察とモデル計算により調べる。これを基盤として、固体酸素における電気磁気効果の発現可能性を探る。また、昨年度に計画したκ型BEDT-TTF塩の磁性・誘電性に対するスピン軌道結合の効果に関する研究を進める予定である。
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