2017 Fiscal Year Research-status Report
超低温STMによる空間変調された超伝導状態の直接観察
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16K17744
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 靖雄 東京大学, 物性研究所, 助教 (10589790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超伝導 / 走査トンネル顕微鏡 / 重い電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
超低温・強磁場で動作する走査トンネル顕微鏡を用いて、重い電子系超伝導体の典型物質であるCeCoIn5の劈開表面の観察を行った。Co原子が最表面に現れた場合、STMの探針を極限まで物質最表面に近づけ、試料探針間の距離を原子スケール以下で精緻に制御したところ、原子の形状の下に隠れていた3d電子軌道を選択的に可視化することに成功した。そして、可視化された3d電子軌道が隣同士で交互に向きを変えて並んでいる秩序状態を発見した。実験結果の詳細な解析と第一原理計算により、本秩序状態は、物質表面において増強された電子間クーロン斥力によって引き起こされた現象であることを明らかにした。同様の軌道秩序は、様々な物質表面で起こることが予想されるが、表面のごく近傍のみの電子軌道状態を調べる手法がなかったために、これまで見落とされていた現象であると考えられる。また、電子軌道の秩序状態は、これまで間接的な観察しか行われていなかったが、本研究で初めて実空間での直接観察に成功した。発見された軌道秩序は、超伝導と共存していることから、電子同士の相互作用が織りなす様々な物理現象と深く関わっている可能性を含んでいる。 一方、Ce、In原子が最表面に現れた場合には、Co面と同様な測定を行うことで、これまで見られていなかったCe原子の可視化に成功した。そして、新たに現れたCe原子と、In原子のそれぞれの直上でトンネル分光の測定を行うことで、超伝導ギャップの構造が異なることが明らかになり、超伝導状態の空間変調構造が観察された。この変調構造は原子スケールで起こっており、CeCoIn5が持つ、多ギャップ超伝導の性質に関わっている可能性があり、現在考察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
STMの安定性に問題があり、その改良に時間がかかったため、実験の遅延があったが、その後の測定で新たな結果を得るに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はSTMの安定性を向上させるために、様々な除振機構を用いて、安定性を下げている原因を究明し、その結果を元に、STMの更なる改良を行う。またさらに、観察された電子軌道の秩序現象を詳しく調べるため、スピン偏極STMを用いたCeCoIn5劈開表面の観察を行いたい。また、CeIn面で見られた空間変調構造の更なる観察から、現象の理解を進める。
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