2016 Fiscal Year Research-status Report
高磁場用超伝導マグネット応用に向けた鉄系超伝導体線材の技術開発
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16K17745
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
卞 舜生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40595972)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 122型鉄系超伝導体 / 超伝導線材 / 臨界電流密度 / 単結晶合成 / 多結晶合成 / 丸型線材作製 / ピン止め導入 / 接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄系超伝導体は臨界温度や臨界磁場が非常に高く異方性が小さいという特長を有するため、将来の30-40 T級の強磁場発生用マグネットの材料として注目されている。特に122型鉄系超伝導体(Ba,K)Fe2As2や(Sr,K)Fe2As2は、単結晶において線材実用化の目安となる10^5 A/cm2よりも高い10^6~10^7 A/cm2の臨界電流密度Jcが報告されており、有望な材料と言える。しかし、線材のコアの多結晶粒間の粒界のJcは一般に単結晶における最大のJcよりも低く、粒間のJcを向上することが課題である。研究代表者はこれまで122型鉄系超伝導体を用いた丸型線材の臨界電流密度の向上を目指して研究を行ってきた。高密度化が比較的容易なテープ線材と比べてJcが低いものの、丸型線材は配向を気にする必要が無く応用化しやすいという特長がある。Jcの向上のため、多結晶原料の純良化、線材作製方法の最適化に取り組んだ結果、(Ba,K)Fe2As2丸型線材において4.2 K、自己磁場下で1.7x10^5 A/cm2、10 Tの高磁場下で2.0x10^4 A/cm2のJcを達成した。これは、現時点で鉄系超伝導体の丸型線材のJcの世界記録であり、応用化へ一歩近づく結果である。また、122型鉄系超伝導体の単結晶と線材のキャリア濃度依存性を評価し、Jcを向上させる上でキャリア濃度も制御パラメータになりえることを示した。これはさらなるJc向上の可能性を示す重要な結果と考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、Jcの向上のため、多結晶原料の純良化、線材作製方法の最適化に取り組んだ結果、(Ba,K)Fe2As2丸型線材において4.2 K、自己磁場下で1.7x10^5 A/cm2、10 Tの高磁場下で2.0x10^4 A/cm2のJcを達成した。これは、現時点で鉄系超伝導体の丸型線材のJcの世界記録であり、応用化へ一歩近づく結果である。さらに、最近になって高磁場下でさらに高いJcを記録しており、その結果は現在論文執筆中である。このように丸型線材のJc向上に関する研究は比較的順調である。 また、当初の予定にはなかったが、122型鉄系超伝導体の単結晶と線材のキャリア濃度依存性を評価した。これは最近他の研究グループで報告された、122型超伝導体単結晶において超伝導臨界温度Tcが最大になるキャリア濃度(x~0.4)でJcが最大にならないという結果を受けてのことである。研究代表者は、報告されているものとは異なる合成条件で、様々なキャリア濃度の単結晶試料を合成してJcを評価することによって、合成条件によらず単結晶のJcがx~0.4で最大にならないことを示した。また、同様にキャリア濃度が異なる超伝導体多結晶を用いて丸型線材を作製してJcを評価し、x~0.4以外でも高いJcの線材が得られることを示した。これらの結果から、Jcを向上させる上でキャリア濃度も制御パラメータになりえることが分かった。 当初の予定にある、線材に対するピン止め中心導入と、線材の接合に関する研究に関してはまだ成果を報告できていないが、これらについても線材に対するイオン照射や線材作製等を進めている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
線材のJc向上のため、多結晶原料の純良化、線材作製方法の最適化を継続して行う。研究の過程で丸線加工方法や使用するシーの選択がJcに大きな影響を与えることが分かってきた。最近報告されている銀スズ合金シースの導入や線引き方法の改善を現在行っており、今後も最適条件を模索していく。 飛躍的Jc 向上を実現するピン止め中心導入の実現のため、まず、プロトンやXe 等を照射することによる欠陥導入を試みる。照射用の線材は欠陥をコア全体に導入するため、薄い50 ミクロン程度まで加工または研磨する。多結晶の焼結体であるコアを有する線材に対しての照射量依存性、そしてその前後の作製・加工方法依存性を特定し、物理的欠陥導入による線材のJc 向上を目指す。次に、薄膜と同様に、BaZrO3 などの非超伝導相のピン止め中心を線材コアに導入することを試みる。不純物となるこれらの微粒子は粒間Jc を減少させ逆効果となる可能性も考慮する。混入・分散方法や量の調整方法等のパラメータを変えながら最適条件を模索する。 鉄系超伝導線材の接合手法の確立のため、まず二種類の線材の接合条件を調べる。最初に予備実験として(Ba,K)Fe2As2 の単結晶および多結晶バルク体を作製する。それらの表面どうしを直接または多結晶粉末等を介して接触させ、焼結や圧力処理とうによる接合を試みる。接合後のJcを評価しJcの減少が最も抑制される条件を確立する。接合部のJcの評価は主に磁気光学イメージングで行う。通常の線材の評価でも行うが、局所領域でのJc の評価が可能な点が磁気光学イメージング手法を有する我々のグループの強みであり、接合の研究に効果的である。これらの研究から(Ba,K)Fe2As2の接合に関する基本的な知見が得られた後に、実際の線材の接合を試み、Jc の減少を最低限にする線材接合方法を確立する。
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Causes of Carryover |
本研究で合成予定の試料はいずれも大気中では合成できず、原料と反応しない密閉容器中で過熱する必要がある。試料作製条件の最適化のためには多くの試料を合成しなければならないが、現時点で合成環境および消耗品が十分でなくこれらを拡充する必要がある。合成のための消耗品として無機試薬、石英管、アルミナ管、等の購入が是非必要である。また低温での物性測定のために冷媒としてヘリウムを頻繁に使用するため、ヘリウムの料金を負担する必要がある。 本研究が軌道に乗れば外部との共同研究に発展する可能性があるため情報発信の継続が重要であり、研究成果発表のために学会の旅費が必要である。また、本申請に関連する研究は国内のみならずアメリカや中国の研究グループでも精力的に行われているため、海外の学会における情報収集と成果発表も必要であり、そのための費用も捻出したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の理由に関連し、無機試薬、石英管、アルミナ管、等の消耗品の購入、物性測定のための冷媒ヘリウム購入、研究成果発信のための学会旅費等に充てる。
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Research Products
(5 results)