2016 Fiscal Year Research-status Report
オプトメカニカルに制御されたカンチレバーを用いた磁気共鳴分光法の開発
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16K17749
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高橋 英幸 神戸大学, 先端融合研究環, 助教 (10759989)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、オプトメカニクスの発展により確立したカンチレバーの光冷却等の原理を応用し、力検出型の磁気共鳴測定の新手法を開発することである。一年目はまず、力検出型のテラヘルツ電子スピン共鳴測定に導入した。この測定では、電子スピン共鳴に伴う試料磁化変化をマイクロカンチレバーに働く力として検出する。カンチレバーの変位は接近させた光ファイバーとの間にファブリー・ペロー共振器を構成してその干渉強度の変化としてする。変位検出用レーザーとして波長可変レーザーを使用しているが、レーザー波長を変化させることでファブリー・ペロー共振器をチューニングすることができる。初年度の研究では、適当なチューニングを施すことで、カンチレバーの熱振動やダイナミクスの不安定性(例えば自励発振)を抑制できることを確認し、この原理に基づいた動的チューニング機構を力検出型の電子スピン共鳴測定システムに導入した。効果は絶大で、大幅な性能改善が実現した。具体的には、測定可能周波数は0.16 THzから0.5 THzまで拡張した。スピン感度は10倍以上向上した。また、以前のシステムでは、測定中に検出感度の変動にともないスペクトルの中に大きなバックグラウンドがのるという問題が生じていたが、本開発によって解決した。この測定システムを用いて金属タンパク質のヘモグロビン・ミオグロビン等のモデル物質である金属ポルフィリン錯体のヘミンのテラヘルツESR測定を行った。測定試料重量がわずか16ngであるが、0.5 THzまでのスペクトルの取得に成功し、物質の詳細な構造決定を行ううえで重要なパラメータを抽出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はまず、レーザー光を用いたカンチレバーの光制御を行うために、これまでの研究でも用いてきた、波長可変レーザーを用いた変位検出システムの改良を行った。レーザー光の波長を変化させることで、カンチレバーと光ファイバーの間に構成したファブリー・ペロー共振器をチューニングすることで、カンチレバーに加わるダンピングを制御することができる。この制御を電子スピン共鳴測定中に動的に行うための測定系および測定プログラムの開発を行った。この開発の結果、電子スピン共鳴測定中に問題となる、カンチレバーの熱振動やダイナミクスの不安定性などの問題を解決することができた。また、カンチレバーの変位測定のダイナミックレンジを拡張することに成功した。次いで、金属タンパク質のヘモグロビン・ミオグロビン等のモデル物質である金属ポルフィリン錯体のヘミンのテラヘルツESR測定を行い、0.5 THzまでの測定が可能であることを確認した。 当初の予定では、カンチレバーの光制御を用いて電子スピン共鳴の熱的検出法を開発するところまでを行う予定であった。これに関してはまだ成功していないが、FFTアナライザ等最低限の備品が導入され、実験可能な設備が整いつつある。 初年度は、申請時には想定していなかった方向性で大きな成果が得られ、カンチレバーの光制御を力検出型磁気共鳴測定と組み合わせて高感度化を狙うというのは非常によい着眼点だったと考えられる。したがって、本研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始前の構想とは少し方向性が異なるが、初年度の最大の成果として、力検出型電子スピン共鳴測定システムの大幅な性能向上がなされたので、今後はこのシステムをさらに改良し、テラヘルツ領域での磁気共鳴力顕微鏡として発展させることを考えている。顕微鏡としての動作には、磁気チップ付きカンチレバーと走査ステージが必要となる。前者は、市販で入手できる、10ミクロン程度の直径の微小磁粉をカンチレバーに乗せて用いる。後者に関しては、自作することになるが、過去に経験があるので問題なく進行できるはずである。1ミクロン程度の空間分解能を得ることを目標とする。また、高強度テラヘルツ光源を開発している他大学のグループとの共同研究も計画している。 また、当初の目的の一つであった、新原理に基づく熱検出法の開発に引き続き取り組む。FFTアナライザ等最低限の備品が導入され、実験可能な設備が整いつつある。初年度の予備的な測定からカンチレバーのばね定数やQ値等のパラメータをよく検討する必要があると感じている。最近、市販で入手できるようになった、1E-2N/m程度の低ばね定数のカンチレバーの使用は効果的と考えられる。 研究開始前の構想では、核磁気共鳴測定へ拡張することも考えていたが、交付額が申請額から大幅に減額されたため、十分な備品購入ができない可能性を懸念している。これに関しては断念せざるを得ないかもしれない。
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Causes of Carryover |
消耗品費の正確な見積もりが難しかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の消耗品購入に使用する。
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Research Products
(7 results)