2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17753
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
杉本 貴則 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 助教 (70735662)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子スピン / スピン液体 / 磁化プラトー / 熱伝導度 / スピン伝導度 / 磁気スペクトラム |
Outline of Annual Research Achievements |
スピンの量子的秩序に基づいた磁気熱流制御の機構を理論的に明らかにするために、主に以下の2つのステップを踏んで、研究を遂行する。一つ目は「印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解明」、2つ目は「磁気励起スペクトラムとスピン伝導度(および熱伝導度)の関係性の解明」である。 また、この際得られた知見を活用し、実現可能な物質とその方法を具体的に提案することも本研究の目標であり、そのために実験グル ープと協力して、随時、対象物質の探索と実験結果と理論計算の比較を行う。 本年度は、昨年度の結果を踏まえ、「印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解明」に取り組んだ。対象とする模型として、フラストレートしたスピン梯子系を考えた。この模型では、有限磁化領域に3つの磁化プラトーが出現することが分かっており、その磁気相図は昨年度の研究で明らかにされている。本年度は、この延長として、磁化プラトー領域を含む有限磁化の準粒子の性質について解析した。この結果、ゼロ磁化近傍と飽和磁化近傍で、素励起であるハードコアボソンの振る舞いに、明確な定性的差異が存在することが分かった。この差異は、準粒子の運動エネルギーの違いとして現れるため、スピン伝導度にも強く影響すると考えられる。また、磁化プラトー相においては、並進対称性の自発的破れに伴う励起スペクトラムの変化を確認した。 一方、磁化プラトーが現れる理論模型を新たに発見した他、実験と共同してFedotoviteと呼ばれる実際の物質中で発現する磁化プラトーの機構を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題研究には、スピンの量子的秩序に基づいた磁気熱流制御の機構を明らかにするために行う理論的研究、および実現可能な物質とその方法を具体的に提案するために行う実験グループとの共同研究の、2つの側面がある。 1つ目の理論的研究においては、当初の計画では「印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解明」を明らかにし、「磁気励起スペクトラムとスピン伝導度(および熱伝導度)の関係性の解明」を行うための計算コード開発を行うことが本年度における目標であった。このうち、磁場と磁気励起スペクトラムの関係については、実際に複数の模型、パラメータにおいてダイナミクスの計算・解析を行い、その準粒子の性質を明らかにした。さらに、本年度は、新たな磁気模型の構築・解析を行い、これが多数の磁化プラトーを持つことを確かめた。その一方で、伝導度の計算コードは開発が難航しており、未だプロダクトランに至っていない。他方で、実験グループとの共同研究においては、新規物質Fedotoviteについて、その低温状態がエネルギーギャップを持った状態である明らかにし、またその発現機構も解明した。以上より、本年度は、当初の計画通りよりやや遅れている側面と、予想以上の成果が得られた側面があったため、これらの総合評価として、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で得られた結果を活用し、当初の計画通り、スピンの量子的秩序に基づいた磁気熱流制御の機構の理論的解明を目指す。また、実現可能な物質とその方法を具体的に提案するため、新たに実験グループとの共同研究を模索する。 最終年度は、理論的な研究として、まず「磁気励起スペクトラムとスピン伝導度(および熱伝導度)の関係性の解明」のための計算コード開発に注力する。当初予定していた、テンソルネットワーク法におけるネットワーク切断の手法は、コード開発にさらなる時間がかかると予想され、データ解析まで到達できない可能性がある。そこで、当初より代替案として用意していた有限温度ランチョス法等を用いて、系のサイズの小さい計算を実行する。これだけでは、有限サイズ効果により、スピン(熱)伝導度が明確に解析できない可能性がある。この場合には、前年度までに行ってきた「印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解析」で得られた結果を用い、その定性的な性質の解明にシフトする。複数の模型でこれを比較して、その普遍的な性質を明らかにすることを目指す。他方で、応用に向けた取り組みとして、引き続き、積極的に実験グループとの共同研究を推進する。この際、これまで共同研究を行ってきた実験グループ以外にも、新たな共同研究の芽を積極的にも模索する。
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Causes of Carryover |
(理由) 初年度に大学内予算が確保できたことにより、当初計画していた国際学会参加のための旅費支出が一部削減された。本年度は、ほぼ計画通り予算の執行したが、最終的な使用額にこの旅費分の差額が生じた。 (使用計画) 本来の目的である国際学会参加旅費としての使用を予定している。
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