2017 Fiscal Year Research-status Report
分子性物質の多様な電荷秩序状態に対する高精度第一原理計算による研究
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16K17756
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
圓谷 貴夫 熊本大学, 大学院先導機構, 助教 (00619869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 電子状態 / 強相関電子系 / 分子性導体 / 電荷秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子性導体は, 分子修飾やカウンターイオンの選択,また圧力印加により, 電荷秩序, スピン密度波, スピンパイエルス, 反強磁性, 量子スピン液体, 超伝導といった多様な基底状態を見せる. これらの電子相の発現のメカニズムを解明する上で,密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算手法も近年盛んに適用されるようになってきた.しかし, DFTの枠組みで一般的に用いられている局所密度近似(LDA)や一般化密度勾配近似(GGA)に基づく計算では, 電子を過剰に非局在化させる傾向があるため, 電子相関起源の絶縁体物質では実験結果に反して金属的なバンド構造が得られてしまうことが多い. これはLDAやGGAにおける自己相互作用の問題として知られている. 本研究では,反強磁性絶縁体状態や電荷秩序状態を示す分子性導体 β’-(BEDT-TTF)2ICl2および (TMTTF)2XF6系に対してスピン分極を考慮した第一原理計算を行なった. まず, GGAを適用し反強磁性状態の安定性およびバンド構造の安定性を評価し,分子あたりの磁気モーメントを定量的に求めた. そのうえで, 自己相互作用の問題の解決策の1つとして用いられる, 短距離交換項にのみハートレーフォック法の厳密な交換項を取り入れるハイブリッド汎関数法 Heyd-Scuseria-Ernzerhof (HSE06)に基づいた計算によって電子状態を調べた結果, GGAによる結果と比較してバンドギャップや磁気モーメントが増大する(電子の局在性が高まる)ことがわかった. 今年度は, 最近, 実験的に決定された(TMTTF)2PF6の電荷秩序状態における構造に対して計算を行った結果, 絶縁体的なバンド構造が得られ反強磁性パターンについての情報も得られた. さらにHSE06汎関数を用いて構造最適化を実行し, 電荷秩序の安定性を調べた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、高精度な第一原理計算手法を主たるアプローチとして、構造最適化を実行することによって、電荷秩序を示す分子性固体における分子間での電荷不均一性やそれに伴う格子の歪みにみられる物質依存性を明らかにすることができ、現在を進捗状況としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、これまでの研究をそのまま継続して進展させる.水素結合系H/D3(Cat-EDT-TTF)2の示す電荷秩序状態に対してもハイブリッド汎関数を用いて、構造最適化を行い、電荷の偏りと格子歪みの程度を調べる。さらに、秩序パターンによっては、空間反転対称性を破り強誘電体へ転移する可能性を明らかにする。電荷秩序系に対するスピン分極を考慮した第一原理計算については来年度中に論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
他の予算でクラスタ計算機を購入できたため、次年度に使用額が生じた。次年度に国際会議で招待講演が予定されているため、その多くを旅費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)