2017 Fiscal Year Research-status Report
真に量子的な相転移とは何か?ー閉じ込めから脱した新しい素励起の数値的研究ー
Project/Area Number |
16K17762
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諏訪 秀麿 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60735926)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 量子モンテカルロ法 / ワームアルゴリズム / 幾何学的配分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では非自明な統計力学的臨界現象を詳細に解析するため、できるだけ誤差の小さい解析を行うことが望ましい。仮に計算結果にバイアスがある場合では、興味のある熱力学的極限に外挿する際、正しい結果を得られない可能性がある。そこで本課題では経路積分量子モンテカルロ法を用い、バイアスの入らない解析を行なっている。この手法における計算誤差はモンテカルロ法における統計誤差のみとなる。よって統計誤差をいかに小さくできるかが重要な要素と言える。一方、経路積分量子モンテカルロ法では、ワームアルゴリズムと呼ばれる状態更新法が最も汎用的かつ効率的な手法のひとつとなっている。このアルゴリズムでは、モンテカルロ更新における確率に自由度があり、計算結果の統計誤差は確率の最適度に大きく依存する。またワームアルゴリズムは量子系のみならず古典系においても最も効率的な状態更新法のひとつであり、本研究対象を含む多くの統計力学的模型において、どのように確率を最適化するかが重要な問題となっている。そこで研究代表者は、「幾何学的配分法」を応用し、ワームアルゴリズムにおける一般的な確率最適化法を考案した。この手法を代表的な統計力学的模型の臨界点に適用し、既存のワームアルゴリズムと比較して約 25 倍計算効率を改善することに成功した。さらに良く知られているクラスターアルゴリズムよりも効率的であることを示した。これらの実績により、本課題のより高精度な解析が可能となった。また提案手法は様々な模型において計算効率を改善すると期待される。本年度では、これらの成果をまとめて論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らは2016年度に脱閉じ込め転移点におけるエネルギー分散関係(低エネルギースペクトル)を明らかにした。本課題では、低エネルギーだけでなく高エネルギーのスペクトルの解明を目的としている。この目的を達成するため、より効率的な手法の開発が重要な要素であった。本年度で開発した確率最適化法を用いることで、より高精度なスペクトル解析が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は低エネルギーだけでなく高エネルギーのスペクトルも合わせて解析する。特に、臨界点に近づくにつれてスペクトルがどのように変化するかを調べる。磁気秩序相ではマグノン励起が、また臨界点ではスピノン励起が生じることがわかっている。このとき、マグノンがどのようにスピノンへと分裂していくかを調べ、脱閉じ込め転移点の非自明な臨界現象を明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度は、研究成果を発表するための出張旅費が予定より少し少なくて済んだため、多少の次年度使用額が生じた。翌年度は請求した助成金と次年度使用額を合わせて、スーパーコンピュータ計算資源の使用料と国際会議参加のための出張旅費に使用する予定である。
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