2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K17767
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
花田 康高 首都大学東京, 理工学研究科, 特任研究員 (50773561)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トンネル効果 / 量子カオス / 半古典論 / ハミルトン力学系 / 非可積分系 / 可積分系 / 非線形共鳴 / 複素力学系 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に従い以下(1)、(3)を実施し、計画に記載していなかった研究として以下(2)を実施した。初年度に実施した主たる研究の成果は次のとおりである。 (1) 多次元系におけるトンネル効果増大の機構として提唱された「共鳴によって促進されたトンネル効果(Resonance-assisted tunneling、 以下RAT)」の理論的妥当性について検証を進めた。まず、近可積分系のトンネル効果増大の機構としてKAMトーラス間のトンネル遷移が基礎過程であることを見出した。RAT機構も古典共鳴がKAMトーラス間の遷移を誘起するとしているため、RATが想定する機構が実現されているかどうか、追試験を行って検証した。その結果、セパラトリックスを超えて遷移するトンネル遷移がトンネル確率の異常増大をもたらしていることを明らかにした。さらに、セパラトリックスを超える遷移はRAT理論で考慮することができない事、古典共鳴由来ではないトンネル遷移の寄与がトンネル確率増大現象を堅牢なものにしていることを明らかにした。また、RATの追試験を行うことでアルゴリズムとしても問題を抱えている事も明らかとなった。この結果の意義は、現在確立されたと思われているトンネル効果の定説を覆すものであり、今後の研究の方向性を転換させる契機になると考えられる。 (2) (1)の補助的解析としてトンネル効果と古典共鳴の役割を、カオスを示さない完全可積分系で検証した。RAT理論では系の可積分性を区別しないが、得られた結果は一次元系で典型的に現れる単一指数関数的振る舞いであり、多次元系で典型的に観測されるものと大きく異なる事を明らかにした。この結果の意義は(1)の結果を異なる状況で補完するものである。 (3) 多倍長対角化ライブラリーの開発の一環として、4倍精度拡張されたEISPACK (名称:QEISPACK)をGitHubにて公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画の主要課題であった、RATの理論的妥当性の検証はおおむね計画通りに遂行することができ投稿論文の準備中である。計画では投稿までを平成28年度の目標としていたため、やや遅れていると評価した。予定より時間がかかっている理由は、約15年に渡って改良が続けられたRAT理論を慎重に検討ならびに追試験を行う必要があっため当初の想定より時間を要した。また、当初研究計画に無かった、古典共鳴を示す完全可積分系のトンネル効果の検証に比較的多くの時間を割いた。主たる理由は、RATをはじめとする先行研究は、多次元系のトンネル効果を一次元系の概念で説明可能である事を想定しており、古典共鳴とトンネル効果の役割をカオスが不在である状況で精査する必要があった。当初計画に無かった研究を実施したため研究予定であった、カオスが比較的発達した強い摂動領域におけるトンネル確率増大の機構についての研究はあまり進んでいない。しかしながら、カオスが比較的発達した状況下であっても、予備的解析から本質的に近可積分系と同じ機構で説明可能である事を示唆する結果を得ているが、基底の選び方によって帰結される結論が変わる可能性があるため、現在慎重に検討を重ねている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
多次元トンネル確率異常増大を理解する上で、KAMトーラス間のトンネル遷移、特にセパラトリックスを超えるトンネル遷移を理解しなければならないことが明らかとなった。この事実は極めて一般的な状況で生る事が確認されているにも関わらず、RAT理論とはじめとするトンネル効果の主要な研究では考慮されていない、もしくは、考慮できない現状にある。主たる原因は、多次元系であってもトンネル効果は一次元の描象で理解可能であるという考え方に原因の一端がうかがえる。実際、近年のトンネル効果の研究は、いかに可積分近似系を構成するかということに焦点が当てられている。一方、セパラトリックスを超えるトンネル遷移は一次元系では生じない多次元系固有のトンネル現象であることが強く示唆されており、専門家のトンネル効果に対する描像を根底から変更する事が要求されている。また、非専門家へ従来の描像の問題点をわかりやすく説明し、多次元系のトンネル効果に対する描像の再構築を行う必要がある。
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Causes of Carryover |
主たる研究はLinux PCで行っているが、書類制作上でMicrosoft officeが必要な場合が多々あり、差額をWindows PCの購入に当てたいと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の使用計画としては、差額をWindows PC の購入費用に当てる予定である。
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Research Products
(10 results)