2016 Fiscal Year Research-status Report
ナノ構造体における励起状態電子‐核相関ダイナミクスの第一原理計算手法の開発
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16K17768
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
鈴木 康光 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 助教 (50756301)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電子・原子核相関ダイナミクス / 時間依存密度汎関数理論 / Exact Factorization理論 / 強レーザー場 / 電子散乱過程 / 交換相関項 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、ナノ構造体における電子・原子核相関ダイナミクスを第一原理計算するための手法開発を、Exact Factorization理論と時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を土台として行っている。本年度は当初の計画に則り、まずExact Factorization理論に基づいて、電子・原子核相関ダイナミクスにおける核に働く厳密な力の定義と解析を行った。すなわち、電子・原子核相関系における厳密なボーム力学の定式化を行い、そこで厳密な力として表れる式には、時間依存ポテンシャルの勾配のみならず、ボームの量子ポテンシャルに相当する項も現れることを明らかにした。そしてこの厳密なボーム力学理論を1次元水素分子イオンの強レーザー場反応に適用し、厳密な力により運動する古典軌道の集団を用いれば強レーザー場中の量子ダイナミクスをも再現できることを明らかにした。本研究で明らかになった知見は、今後のExact Factorization理論に基づく電子・原子核相関ダイナミクス計算手法開発において重要な役割を果たす。本内容について論文を発表(Physical Review A)し、また学会発表(国内学会1件、国際学会1件)を行った。 次に、TDDFTの交換相関汎関数改良に向けた研究として、シュレディンガー方程式を数値的に厳密に解ける1次元2電子散乱モデルを開発し、その解から厳密な時間依存交換相関ポテンシャルを計算して、その解析を行った。その結果、衝突を起こす2つの電子の局所速度が異なることに由来する時間依存相関項が、ステップ型あるいはピーク型の構造をポテンシャル上に作り出し、これが正しく電子の反射を再現するために重要であることを明らかにした。本研究は、TDDFTを電子散乱過程にも適用できるよう改良するための重要な知見を与える。本内容について、学会発表(国内1件)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)電子・原子核相関ダイナミクスにおける核に働く厳密な力の定式化とその解析、そして(2)1次元2電子散乱過程における厳密な時間依存交換相関ポテンシャルの計算とその解析を行うことができた。上記(1)は今後のExact Factorization理論に基づく電子・原子核相関ダイナミクス計算手法開発における量子ポテンシャルの導入部分において重要な役割を果たし、(2)は電子ダイナミクス計算部分を担うTDDFTの交換相関項の改良に向け重要な役割を果たす。上記2つの成果は年度初めに立てた計画をおおむね達成したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、本年度においては電子・原子核相関ダイナミクスにおける核に働く厳密な力の解析と、電子散乱過程における時間依存交換相関ポテンシャルの解析を行い、それぞれについて重要な知見を得た。次年度においては、これらの成果を基に、本研究課題の目的であるナノ構造体に適用可能な電子・原子核相関ダイナミクス計算手法の開発を進めていく。具体的には、(1)量子ポテンシャルからの力を取り込んだ量子・古典混合ダイナミクス計算手法の開発と、それの3次元水素分子イオン系への適用、そして、(2)TDDFTで電子散乱過程を再現するための近似交換相関項の開発を行う。本年度に引き続き、海外共同研究者とも密にディスカッションを行いながら研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
年度初めの計画では、海外共同研究者(アメリカ)のもとへ渡航し研究打合せをするための旅費を計上していたが、該当の海外共同研究者が来日し国内で研究打合せを行ったため、その分が残金となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残金65,276円を平成29年度に物品費(消耗品)として使用する。
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