2016 Fiscal Year Research-status Report
高温ガスセルを用いた振動励起した分子の光電子分光法の開発
Project/Area Number |
16K17775
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
岩山 洋士 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 助教 (50584570)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 振動励起 / 高温気体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、燃焼反応や合成反応、或いは高層大気において重要な役割を果たす高温気体に含まれる振動励起した分子の性質を調べるため、高温試料気体の光電子分光法の開発を目的としている。そのため、現有している高分解能光電子分光装置のガスセル部に、試料気体を加熱できるよう改良を施す。本年度は、試料気体を加熱できる高温ガスセルを設計・開発し、光電子スペクトルを解釈するための量子化学計算環境を整備した。 高温ガスセル部には、ヒーター線には1400℃まで加熱できるカンタル線を用い、アルミナ管を用いることで絶縁した。加熱試験を行ったところ、800℃まで加熱できることを確認したが800℃以上になると、電子分光装置全体が温度上昇し、熱輻射による損失が大きくなる結果が得られた。更なる温度上昇を目指すためには、ラディエーションシールドなどの輻射対策が必要であることが分かった。しかし800℃に加熱された高温試料気体には窒素、酸素、水分子の場合では、それぞれ6%,12%,12%振動励起された分子を含み、800℃でも十分に室温とは異なる光電子スペクトルが期待できる。 光電子スペクトルを解釈するためには、量子化学計算との比較が不可欠である。特に振動励起した分子では、基底状態の分子に比べて、分子結合長が変化する。このことはFranck-Condon領域が広がることに対応し、室温での分子状態では観測できなかった新しい電子励起状態が観測されることが期待される。そこで、得られた光電子スペクトルをすぐに解析できるよう、量子化学計算ソフトを導入し、電子状態計算を行える環境を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、振動励起分子を生成するための高温ガスセルの設計・開発と光電子スペクトル解釈のための量子化学計算の環境を整備した。高温ガスセルについては、ヒーター線の太さや材質について試行錯誤することで、800℃まで加熱できるガスセルを開発した。目標としていた1000℃には到達できていないが、窒素、酸素、水分子では、それぞれ6%,12%,12%振動励起された分子を含み、十分に室温とは異なる光電子スペクトルが期待できる。今後はラディエーションシールドなど熱輻射を抑える構造を加えることで、更なる性能向上が見込まれる。また光電子分光装置への熱負荷がかからないよう、高温ガスセルの周りに、冷却水を循環させた銅カバーを設置した。 光電子スペクトルを解釈するためには、量子化学計算との比較が不可欠である。そこで量子化学計算を行うソフトウェアmolproを導入した。本計算ソフトは、多参照配置間相互作用法や結合クラスター法など高度な量子化学計算を実行することができるが、計算量が多いと時間がかかる。そこで、マルチCPUを搭載したワークステーションを準備し、光電子スペクトルが得られ次第すぐに、解析できるよう準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発した高温ガスセルを、現有の高分解能光電子分光装置に組み込み、光電子スペクトルを計測する。まず光源として、ヘリウム光源からの21.2eV (He(I))を用いる。光電子スペクトルの温度依存性を測ることで、振動励起した分子の割合を変化させ、振動励起順位ごとの光電子スペクトルを得る。また得られた光電子スペクトルを量子化学計算と比較し、振動励起による結合長の変化が、電子遷移にどのような影響を与えるかを、詳細に計測する。 また、より高温に加熱するためには、ガスセルをラディエーションシールドで覆うなど、熱輻射の対策を行い、さらなる温度上昇を目指す予定である。
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