2017 Fiscal Year Research-status Report
真核細胞の集団での指向走性能率に関する理論と実験の両面からの研究
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16K17777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岩 徹也 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20612154)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 数理シミュレーション / 細胞間コミュニケーション / 自己駆動体の理論 / 集団遊走 / 走化性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ある種の遊走細胞は、細胞同士が互いに接触した際に細胞間でやりとりを行い、ぶつからないように自らの遊走方向を変更することが知られている。これは一種の接触阻害(contact inhibition of locomotion、以下CILと略記と呼ばれる細胞間での化学的やりとりである。 前年度、マクロファージ様に分化された培養HL60細胞の遊走の位相差顕微鏡察を行い、このCILが起こっていることを見出した。今年度はその高密度での挙動の解析を進め、その結果、生成消滅を繰り返す弱いクラスター構造(粗密パターン)が自発的に出現することを見出した。また、好中球様に分化させた場合も観察し、同様の動的パターンが現れることを見出した。 また前年度、互いにCILを行う細胞集団の遊走の数理モデルを構築し、集団での遊走挙動の数値シミュレーションを行った。モデルの構築には、自己駆動体と呼ばれるエネルギーを消費しつつ定常的に動き回る物体の数理モデルを活用している。シミュレーションの主な結果として、CILと排除体積効果(細胞同士が物理的に重なり合えない効果)が組み合わさると、自然と集団中の細胞達の遊走方向がそろうことを発見した。その結果の定量化には自己駆動体の集団運動の理論で用いられてる手法を活用している。また、走化性の刺激を加えた場合の集団遊走のシミュレーションも行った。結果、孤立した細胞の場合には正しい方向に走化性できないような小さな刺激に対しても、集団の場合には遊走方向がそろう現象に由来して精度良く走化性できるようになり得ることも見出した。今年度はそのシミュレーションを進め、パラメータ依存性や、集団運動が生じる転移の性質、密度ゆらぎの特徴などを、定量的に解析した。 現在、シミュレーションの結果をまとめた論文を査読付きの学術誌に投稿中である。また、国内外の会議において発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
細胞実験に関する課題の進捗がやや遅れている。 当初予想していた集団運動は今回解析の実験系では見られず、代わりに別のタイプの集団性(動的な粗密パターン)が見えた。提案のモデルの拡張により説明は可能であるが、改めてモデルの結果の詳細な解析が必要である。 実験結果およびシミュレーション結果の解析のための手法は完成し、数理モデルの物理パラメータがどのような符号の場合に実験結果が説明できるかまではわかったが、定量的に比較を行い物理パラメータの値自体を同定するには至っていない。 シミュレーションに関する課題は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
好中球様に分化されたHL60細胞での実験データを集めてその解析により物理パラメータの同定を行う。マクロファージ様ではなく好中球様にしたのは、その方が遊走の速度も速く、また遊走状態にある時間も長いため(マクロファージ様では6時間程度に対して好中球は数日)。 その同定の後、走化性を引火し実験とシミュレーションのデータを比較する。
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Research Products
(11 results)