2017 Fiscal Year Research-status Report
隕石衝突による生命の起源分子生成過程の第一原理的研究
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16K17782
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島村 孝平 神戸大学, システム情報学研究科, 助教 (60772647)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 第一原理分子動力学法 / 衝撃波シミュレーション / アンモニア生成機構 / 隕石の海洋衝突 / 原初地球 |
Outline of Annual Research Achievements |
約38億年前まで続いた後期重爆撃期に降り注いだ多量の鉄隕石は海洋へ衝突し、その際に生じる衝撃波エネルギーと金属鉄による還元作用が地球全体に多くの還元的有機分子を供給した可能性がある。我々はこの可能性を隕石衝突時に発生する衝撃波を再現するMulti-Scale Shock Techniqueと第一原理分子動力学法を組み合わせたマルチスケール衝撃波第一原理分子動力学法に基づく計算機シミュレーションにより原子レベルのミクロな観点から検証を行っている。これまで窒素から還元的窒素化合物の生成機構の解明に尽力してきたが、本年度は二酸化炭素から還元的な炭素化合物の生成機構に注目して調査を行った。還元的窒素化合物としてはアンモニアのみが生成された一方で、還元的な炭素化合物としてはカルボン酸や炭化水素が生成した。生成物の種類が増えたことにより生成過程の特定が困難になったものの、いずれも途中で二酸化炭素と水から形成する重炭酸が中間物として重要な役割をしていることが分かった。隕石衝突に伴う瞬間的な高圧化により生成する重炭酸は二酸化炭素よりも炭素-酸素間の結合強度が弱いため反応活性であり、炭素原子の供給源になる。また3つの酸素原子を利用して行われるプロトン輸送により水素原子の分子間の受け渡しを活発化させる役割を担っている。 しかしながら、これまでは密度汎関数法に基づく第一原理分子動力学シミュレーションを行ってきたが、計算時間の観点から反応経路を網羅することが難しくなってきた。このため、計算時間を先の方法に比べて10分の1程度に抑えることのできる密度汎関数強束縛近似法に基づく分子動力学法を取り入れることにした。これまでMulti-Scale Shock Techniqueを備えた本手法による計算パッケージは一般的には存在しないため、これを作ることでより大規模な反応過程の探索への準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
隕石の海洋衝突による還元的な窒素及び炭素化合物の生成過程は原子レベルで明らかに出来つつある。このため最終目標であるアミノ酸・核酸塩基等の生成はまだ見られていないものの、その部品となる分子の生成には成功しているため目標達成に近づきつつあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに培った計算機シミュレーションの経験から、最終目標であるアミノ酸・核酸塩基の生成のためには、現在主な解析手法として用いている密度汎関数法に基づく第一原理分子動力学法で可能な原子数では困難であるかもしれない。このため、最終年度は計算速度だけでなく原子数も各段に増やすことが可能な密度汎関数強束縛近似法に基づく分子動力学法を主として反応経路探索を行っていきたい。ただ計算速度の向上のために一部分を関数や調整パラメータでフィッティングした手法であることから、計算精度の点では十分注意したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は計算手法を充実させるために計算コードの開発に時間を割いたことが要因である。このため、成果発表数が少ない。 次年度は最終年度ということもあり、この次年度使用分を積極的に成果発表に用いていきたい。
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