2016 Fiscal Year Research-status Report
アミロイド線維形成に関与する水和水ダイナミクスの解明
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16K17783
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山本 直樹 神戸大学, 理学研究科, 特命助教 (90580671)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 広帯域誘電分光 / 誘電緩和 / テラヘルツ時間領域分光 / 水和タンパク質のダイナミクス / 動力学転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題でクリアすべき目標であった、ベクトルネットワークアナライザを用いたギガヘルツ領域(0.5-20 GHz)の水和タンパク質の温度依存性測定を行うことができた。温度変化測定用のセルは、サンプル保存容器を加工することにより、想定していたよりも簡単に作製することができた。装置の校正に必要な校正物質として適当なものを選び、球状タンパク質リゾチームおよび膜タンパク質バクテリオロドプシンについて、233-293Kにおける温度領域の測定を行った。その結果を、テラヘルツ時間領域分光法により測定したテラヘルツ領域(0.3-2.3 THz)の温度依存性複素誘電率スペクトルと結合し、緩和および振動モードを導入したモデル式を用いた解析をおこなった。その結果、温度上昇にともない、メガヘルツ~ギガヘルツ領域に存在する水和水とタンパク質がカップルした緩和モードが、約230K付近でテラヘルツ領域に侵入してくることを突き止めた。この結果は、先行研究から予想されたものであったが、本研究では実際にその証明を行うことができた。また、リゾチームについては、先行研究で報告されている緩和時間の値と良い一致を示した。これらの結果より、テラヘルツ領域においてこれまで報告されてきた、中性子散乱における動力学転移と類似した現象について、温度上昇による緩和モードのブルーシフトに起因する、と結論付けた。また、福岡工業大学との共同研究で、50ギガヘルツまで測定可能なベクトルネットワークアナライザを用いて、室温における水和タンパク質の測定を行った。測定方法にまだ改善の余地はあるものの、20ギガヘルツまでのスペクトルと矛盾しない結果を得た。このことは、ギガヘルツとテラヘルツ間に存在するスペクトルのギャップを埋めるための大きな前進である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度に予定していた、ネットワークアナライザを用いたギガヘルツ領域の複素誘電率スペクトル測定について、その温度変化測定を行うことができた。また、テラヘルツ領域の複素誘電率スペクトルと結合させて解析することにより、スペクトルの温度依存性に寄与するダイナミクスを定量的に評価することができた。一方、測定予定であったアミロイド線維については試料調製の検討に時間がかかり、測定は来年度に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
アミロイド線維を作製する際に添加していた塩酸が、複素誘電率スペクトルに電気伝導として大きく寄与し、解析の妨げとなるため、先ずは塩酸なしてアミロイド線維を作製するための条件を見出す。試料が作製出来次第、ギガヘルツ領域およびテラヘルツ領域の温度依存性複素誘電率スペクトル測定を行う。テラヘルツ領域については、参照試料および測定試料間を自動往復できるシステムを開発し、効率的に温度変化測定が行えるようにする。また、サブテラヘルツ領域(0.1-0.3 THz)の複素誘電率スペクトルについても、テラヘルツ時間領域分光計を用いた温度依存性測定を行い、ギガヘルツとテラヘルツ領域のスペクトルのギャップを埋め、スペクトルの定量的評価をより精度良く行えるようにする。なお、サブテラヘルツ領域の電磁波は、ビームウェストが2 cmほどの広がりを持つため、それにあわせた測定セルの改良、および測定方法の改良を行う必要がある。測定結果のフィードバックを繰り返し、測定手法を最適化していく。
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Causes of Carryover |
当該年度に購入予定であった、テラヘルツ時間領域分光計温度変化測定の自動化ステージ購入が前年度内に納入できなかったため、前年度使用予定額にあまりが生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はこの当該年度のあまりの額をテラヘルツ時間領域分光計温度変化測定のための自動化ステージ購入に当てる。また、自動化ステージ制御のための周辺機器およびソフトウェア購入に充てる。
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Research Products
(10 results)