2017 Fiscal Year Research-status Report
超高速時間分解分光によるヘムたんぱく質光乖離機構解明
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16K17784
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
藪下 篤史 神奈川大学, 付置研究所, 客員教授 (20376536)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光反応 / 超高速分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘムたんぱく質は生体内で重要な機能を持っており、ヘモグロビンは呼吸で得た酸素を体内に輸送しエネルギーを与え、一酸化窒素合成酵素から発生する一酸化窒素は血流、神経伝達、免疫をコントロールする。これらの機能のトリガーとなる初期過程は分子のヘムたんぱく質からの超高速乖離であるが、その重要性にもかかわらず、未だその詳細は明らかにされていない。本研究課題ではこれらの乖離過程を明らかにするため、超短光パルスを用いた分光実験を行いそのダイナミクスを解明する。独自に開発した超短パルス光源と測定装置を用いることにより、きわめて独自性のありかつ医療につながる意義を持った研究が行える。 一酸化窒素(NO)は生体内で重要な役割を担っており、血流の制御、神経伝達、免疫などの細胞の活性を制御する役割を持つ。これらのNOSは単量中に還元部位(reductase domain)と酸化部位をもちそれらがカルモジュリンによってつながれており、一般に2量体として体内に存在する。NOは還元部位から酸化部位へ電荷移動が起きた後に、酸化部位中のヘムから乖離される。この最重要である乖離過程はフェムト秒オーダーの超高速で起きるため、その機構解明には超短パルスを用いた超高速分光が必須となる。 本研究課題ではこれらヘムたんぱく質からの分子の超高速乖離過程を明らかにするために、超高速分光の手法を用いて観測する。研究の結果、近紫外線波長領域において10フェムト秒より短いパルス幅を持つパルスレーザーの開発に成功した。分光用途に用いるため、安定性向上などの改良を行っている途上であり、それと並行して行っているたんぱく質の超高速光反応研究において新しい発見があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度に完成予定であった近紫外超短パルスレーザーが、大幅に目標を更新し10フェムト秒をきるパルス幅のレーザー発生を達成することができた。安定性を含めた改良を進めれば、十分分光に使用できると考えられる。 また同じく開発した超短パルス光源を用いて光駆動プロトンポンプのたんぱく質の分光を行った。試料としてはHaloquadratum walsbyiからのバクテリオロドプシンであるHwBRとHaloarcula marismortuiからのバクテリオロドプシンであるHmBRI及びHmBRIIに対し超高速ダイナミクスを調べた。HwBR試料に対しては野生型、D93N変異体、D104N変異体の比較を行った。D93、D104はプロトン輸送サブチャンネルにおいて各々シッフ塩基プロトンの受容体、供用体を制御するアミノ酸残基であることが知られている。D93からの負電荷が発色団の光異性化に伴う超高速電位変化に影響を与えることが発見された。一方シッフ塩基プロトンの供用体の方は、振動励起状態の熱緩和過程における発色団周辺の水素結合ネットワークの再構成を促進するという結果が示された。 HwBR,HmBRI,HmBRIIの超高速分光の結果からは、HwBR及びHmBRIIにおける細胞膜の細胞外部側における水素結合ネットワークが発色団の光異性化を遅くする結果が発見された。またHwBR及びHmBRIIの細胞内側にある負荷電の螺旋構造が、振動励起状態の熱緩和を早めることが分かった。発見された現象のHwBRのD104N変異体との相似から、シッフ塩基プロトン供用体を不活性にすることで細胞内部側の螺旋構造が正に荷電することを示していると考えられる。 これらの成果はBiophysical Journal, 112, 2503-2519 (2017)に出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に完成予定であった近紫外超短パルスレーザーが、第二年度においてほぼ完成することができた。目標値であった30フェムト秒を達成するのみならず、そのチャープ圧縮を極限まで行うことにより、10フェムト秒をきるパルス幅のレーザー発生を達成することができた。したがって最終年度において、さまざまな試料の光反応に対してこの光源を適用した超高速分光を行うことにより、それらの反応における電子ダイナミクスや振動ダイナミクスが明らかにされると期待される。一酸化窒素合成酵素の時間分解分光を行うことで、一酸化窒素の乖離ダイナミクスの全容が解明される。酸化部位のみを試料として用いることで、純粋にヘムから一酸化窒素が乖離する過程が見られる。その後、還元部位、カルモジュリンを含む全体の一酸化窒素合成酵素の時間分解蛍光を行い、酸化部位のみの場合との比較を行うことによって、還元部位から酸化部位への電荷移動ダイナミクスについても評価が可能となる。さまざまな配位子をつけた一酸化窒素合成酵素の時間分解吸収分光を並行して行うことで、一酸化窒素の乖離ダイナミクスの全容が解明され、また配位子が与える影響の評価を行うことによって、一酸化窒素排出を制御する薬の開発のための重要な情報を得ることにつながる。
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Research Products
(10 results)