2018 Fiscal Year Research-status Report
海溝型巨大地震発生の理解と予測を目指した粘弾性地震発生サイクルシミュレーション
Project/Area Number |
16K17789
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
大谷 真紀子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (80759689)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | クーロン応力 / 境界要素法 / 等価体積力法 / 三次元粘性構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、実際の地震(2008年M7.9四川大地震・2018年M6.7北海道胆振東部地震)を対象として、地震発生後その周囲に存在する活断層帯中の断層での応力変化を調べ、クーロン応力(ΔCFF)として地震の誘発ポテンシャルを評価した。通常ΔCFFは弾性体を仮定して評価されるが(時間変化しない)、本研究では等価体積力法(Barbot and Fialko 2010; Barbot et al. 2017)を用いて粘弾性媒質における応力緩和を計算することで、時間変化するΔCFFを求めた。 2018年9月に発生した北海道胆振東部地震(胆振地震と呼ぶ)は、その近くに日本の主要活断層帯の一つである石狩低地東縁断層帯(北部・南部断層)が存在し、そのうち南部断層は胆振地震の真上に位置する。また胆振地震の余震分布からは胆振地震断層の浅部延長部に未知の断層の存在が示唆され、胆振地震がこれらの断層に及ぼす影響が懸念される。そこで本研究では、これらの断層でのΔCFFの変化を評価した。 南部断層の結果を例として示す。南部断層では、ΔCFFが地震時にその浅部・深部で正、中部では負となる(弾性体を仮定した時と同じ)。三次元的に求められた粘弾性層厚さ(Cho and Kuwahara 2013)より下部を粘性率10**19 Pa sの粘弾性体と仮定すると、浅部では地震後粘弾性層の応力緩和によってΔCFFが増加し続け、10年間で地震時の1割程度変化した。ΔCFFが増加すると断層は地震に近づくと考えられ、また10年間の変化量は経験的な地震誘発の指標である0.01MPa以上(ただし地震時)よりも大きく、今後しばらく地震の発生に注意が必要であることが示唆される。 本研究内容は論文としてまとめ、国際誌に受理された。また、同様の評価を2008年四川大地震に対しても行っており、その結果を共著論文としてまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまで、地下の粘弾性領域での応力緩和が断層面に及ぼす応力変化を評価し、断層の地震発生に与える影響を調べるために手法開発を行ってきた。境界要素積分法をベースとした等価体積力法(Barbot and Fialko 2010; Barbot et al. 2017)と、密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を組み合わせることで、粘弾性媒質の離散化セル数Nに対する応力評価計に要する計算量としてO(NlogN)を実現した。例えばN = 69,120のとき単位非弾性ひずみに対する応力変化を表すグリーン関数行列はメモリ量0.17倍、応力の計算にかかる時間は0.05倍となり、H行列法は有効である。 本年度は、実際の断層での地震誘発可能性の評価を行った。日本の主要活断層帯の一つである石狩低地東縁断層帯(北部・南部断層)について、2018年9月にその近くで発生した北海道胆振東部地震が及ぼす影響を調べた。上記粘弾性緩和による応力変化を計算する手法を用いて、北部・南部断層における地震前と比べた応力変化の時間変化を計算した。断層での誘発可能性の評価として用いられるクーロン応力(ΔCFF)を用いると、北部断層南部・南部断層では、その浅部で地震時また地震後もΔCFFが増加し、地震の誘発危険性が高まった状態が続くことが示唆された。経験的に考えられている地震誘発の指標となるΔCFF変化はある0.01MPa以上よりも大きく、この指標は地震時のものであり、粘弾性緩和によるゆっくりとした変化に対しての誘発可能性は、これよりも小さくなると考えられる。今後、断層面の摩擦挙動を考慮して誘発可能性評価する必要があり、その際には地震の繰り返し(地震サイクル)を考える必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、粘弾性媒質での応力緩和を計算する境界要素積分法をベースとした等価体積力法(Barbot and Fialko 2010; Barbot et al. 2017)と、密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を組み合わせることで、粘弾性媒質の離散セル数Nに対する応力評価計に要する計算量としてO(NlogN)を実現した。これは離散セルを粘弾性媒質を均等に分割した等間隔セルを用いたものである。今後実際に三次元領域での地震サイクルを模擬するには、断層の近くなどを小さいセル、また断層から離れたところを大きなセルで離散化する不等間隔セルを設定する必要がある。このような場合には、H行列を適用した場合の精度が悪くなると考えられる。このような場合にも、計算量を効率的に削減した計算を行えるよう工夫する。
|
Causes of Carryover |
本研究計画で構築した計算手法を2018年9月に発生した北海道胆振東部地震に適用して周辺の地震誘発可能性を評価した。また本研究費を使ったまとめ論文を現在準備中だが、投稿する論文をより高いレベルの内容にするために、追加として非等間隔離散セルを用いた場合の追加実験を行うため、補助事業期間の延長を申請し、許可された。次年度使用額分は、上記の通り論文の投稿費として使用する見込みである。
|