2016 Fiscal Year Research-status Report
SAR衛星観測と数値計算による水蒸気爆発型噴火の前駆的地殻変動機構に関する研究
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16K17797
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Research Institution | Geospatial Information Authority of Japan (Geography and Crustal Dynamics Research Center) |
Principal Investigator |
小林 知勝 国土地理院(地理地殻活動研究センター), その他部局等, 主任研究官 (40447991)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 前駆的地殻変動 / 水蒸気噴火 / 箱根・大涌谷 / 干渉SAR時系列解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、一般的に規模が小さいために予測が難しいとされる水蒸気爆発型噴火について、衛星データで捉えられた噴火発生前に出現する地殻変動を手掛かりに、前駆的に進行する地下浅部の圧力変化の要因を数値シミュレーションにより明らかにし、噴火発生に至るまでの準備過程の物理的条件を理解することを目的としている。本年度は,2015年に小規模な水蒸気噴火を起こした箱根山・大涌谷を対象に,噴火に前駆して進行する地殻変動をSAR衛星データ解析により精査した. 本解析では,噴火の約2ヶ月前から見られた顕著な活動異常前に,大涌谷で地殻変動が進行していたかどうかを調べた.解析には,RADARSAT-2衛星を使用した.一般的には非都市域の観測には不向きな波長の短いマイクロ波(Cバンド)のデータであることから,変動の検出には,標準的な干渉SAR時系列解析手法ではなく,Phase Linking法を利用した位相最適化技術を適用した. 2014年9月末から2015年3月中旬までのデータ解析の結果,大涌谷で膨張性の地殻変動を検出することに成功した.直径200mの局所的な領域で年平均に換算して約5cmの速度で,地盤と衛星の距離が短縮していることを捉えた.注目すべきことに,この変動域は,噴火の約2ヶ月前にALOS-2衛星により検出された地殻変動と同じ位置に観測された.変位の時間発展を見ると,遅くとも2014年末頃から膨張性の地表変位が開始し,時間とともに地殻変動が進行していくことがわかった.本解析により,地震活動等の顕著な活動異常が認識される前から,大涌谷では地殻変動が進行していたことを初めて捉えることができた.このことは,噴気活動や地震活動が顕著に活発化する前から,深部からの熱供給が開始されていた可能性を強く示唆するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SARデータによる地殻変動に関する研究においては,活動異常前の期間のALOS-2衛星の観測数が不足していたことから,時系列解析が可能な画像数を持つRADARSAT-2データを利用した.ただし,一般的には非都市域の観測には不向きなCバンドSARデータであることから,標準的な解析手法では対応が困難であった.そこで,本研究代表者が開発した位相最適化技術を適用することで,顕著な活動異常が見られる半年ほど前から,噴火域において局所的な変動が進行していたことを初めて発見することができた.これは,噴火に先立つ準備過程において,いつから,どの程度の熱・火山性流体の流入があったのかを制約する上で重要な観測結果となっている.計画立案時にはCバンドのような波長の短いSAR衛星データを用いることは想定していなかったため,当初の計画で期待されていたものを超える大きな成果があったと評価できる.一方,観測データの解析に大きく注力した分,当初予定していた数値解析にはほとんど時間を取れなかったため,この点については進行にやや遅れを生じている.従って,研究全体を通じては,平均的な進捗状況に落ち着いていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究を通じて,非都市域の観測には一般的に不向きとされる波長の短いマイクロ波のSARデータであっても,特殊な位相最適化処理を施すことで,有意な地殻変動を抽出できる可能性があることがわかった.箱根山では,2001年以降,活発な地震活動や広域の膨張性地殻変動が見られるなど,噴火には至らなかったものの火山活動が活発な時期が複数回確認されている.これらの活動時の地殻変動の時間推移は,地熱地帯における地下浅部の圧力状態が,噴火に向かってどのように推移していくのかを知る上で重要である.過去の火山活動時に箱根山を観測しているSAR衛星は,ほとんどがCバンドデータであるが,本年度の研究を通じて,位相最適化技術を適用すればCバンドデータであっても,地熱地帯の微小地殻変動を観測できる可能性が拓けた.このような背景の下,1990年代以降のSARデータを用いて,過去の大涌谷の地殻変動について精査する. 続けて,観測から得られた地殻変動データを基に,地殻変動を駆動する地下の圧力及びその分布を推定する.数値地図データを用いて実地形を再現し,実際の地殻変動データとより正確に比較検討ができるように,有限要素法を用いた解析を遂行する.解析では,膨張源の位置及び形状等のパラメータ探索を基にシミュレーションを実施し、観測された地殻変動を説明する圧力状態を推定して,噴火の準備過程における地下浅部の定量的解釈を目指す.
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Causes of Carryover |
実施状況報告書の進捗状況に記載したとおり,数値計算に関する部分については,研究の進捗にやや遅れが出た.そのため,研究に使用するソフトウェアの購入手続きが年度末にずれ込んだ.購入に関する内部手続きは既に年度内に終えていたものの,所属機関の判断で年度内の購入・納品が認められなかったことから,実際の支払いが次年度に先送りされたため,物品費に未使用額が発生した.また,旅費にあてられる国際学会が,次年度の4月開催であったことから,日当や交通費等の支払いの一部が発生したのが年度を超えてからであり,そのためこれについても未使用額が発生した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記理由での説明の通り,物品等の購入措置は年度内に既に終えており,実際の支払いが年度を超えてから発生することになった.未使用額は,当初の予定通り執行される見込みである.
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