2016 Fiscal Year Research-status Report
巨大アンサンブルデータ同化を基としたマルチスケールデータ同化手法の開発
Project/Area Number |
16K17806
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
近藤 圭一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 特別研究員 (00735558)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | データ同化 / アンサンブルカルマンフィルタ / 鉛直誤差相関 / 鉛直局所化 / 衛星観測 / マルチスケール |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画を変更し、2年度目に実施予定であった衛星観測データ同化のための鉛直局所化について研究を行った。 アンサンブルカルマンフィルタでは、計算資源制約上アンサンブルメンバー数は一般的に100程度である。さらに、衛星観測データの同化に必要な鉛直局所化関数については最適な関数が不明であるため、通常はガウス関数等を用いている。本研究では、サンプリング誤差の影響を抑え鉛直局所化の影響を調べるため、すでに実施済みの10240メンバーアンサンブルデータ同化実験の結果に高速放射伝達モデルを適用し、現実大気の鉛直誤差相関を調べた。その結果、アンサンブルメンバー数が1000程度で鉛直局所化が不要であろうと推定されたので、実際に20~1280メンバーを用いて鉛直局所化がデータ同化に与える影響について調査した。 本研究では、解像度112 km、鉛直40層のNICAM-LETKFシステムを用いた。アンサンブルメンバー数は20,40,80,160,320,640,1280である。ゾンデ等の従来観測として米国国立環境予報センターで用いられている観測データ、及び衛星観測としてマイクロ波放射計データを用い、6時間毎に同化した。CTRL実験は全ての観測に鉛直局所化を適用、TEST1実験は全ての観測に鉛直局所化を適用していない。その結果、TEST1実験は1280メンバーを用いてもCTRL実験より解析精度は悪化した。そこで衛星観測にのみ鉛直局所化を適用しないTEST2実験を追加で行った。その結果、TEST2実験は40メンバーでCTRL実験より解析精度が上がり、良好な結果を得た。鉛直積算量を観測する衛星観測は、誤差相関スケールが従来観測より長いため、鉛直局所化を適用しないことにより効果的に衛星観測を同化できたものと考えられる。 関連して、単純な全球モデルを用いた局所化の影響を研究し成果を論発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、初年度に(1)現実大気におけるマルチスケールデータ同化手法の評価、2年度目以降に(2)衛星観測データ同化のための鉛直局所化関数最適化に取り組む予定であった。しかしながら、年々スーパーコンピュータ技術が発展している中、本研究で用いる「京」コンピュータが計算性能優位性を世界的にも維持できている現環境下で、より多くの計算資源を費やす(2)は学術的にインパクトが高いと判断し、初年度に繰り上げ実施した。なお(1)(2)は互いに独立しているため、本計画変更による問題は発生しない。 鉛直局所化の影響調査では、ゾンデ等の従来観測及び衛星観測データに鉛直局所化の適用・不適用の実験をした。またアンサンブルメンバー数を変化させた時の感度についても評価した。本実験は膨大なファイルI/Oが発生するため、「京」コンピュータに障害をもたらしたものの、現在はプログラムコードを修正したため問題は解決している。現状としては、最も計算資源を消費する1280メンバーの実験が一部残っているが、平成29年度中に終了予定である。本研究では良好な結果が得られており、総じて順調に推移している。現在論文執筆中である。 マルチスケールデータ同化手法は平成29年度に着手予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
衛星観測データのための鉛直局所化の影響調査について、未完了の実験を2年度目の早期に終了させ、論文投稿予定である。 初年度実施予定であったマルチスケールデータ同化手法の評価は、2年度目に着手する。現実大気の持つ広範囲に及ぶ誤差共分散の情報を現実的なアンサンブルメンバー数(100程度)で効果的に近似するため、マルチスケールデータ同化手法をNICAM-LETKFに実装する。実装にあったては、モデルデータを空間的に平滑化する必要があるが、NICAMの特殊な格子構造に適応可能な平滑化技術を実装した上で検証する予定である。まずは異なる2つの局所化を用いたデュアルスケール局所化手法に取り組む。従来手法との検証には、誤差共分散構造の他に、解析誤差及びその空間分布、計算コスト等を総合的に評価する。 最終年度には、複数の局所化を適用することで、大気の誤差共分散構造をより精緻に把握することが可能となると考えられるが、計算コストも増加するため、費用対効果が高くなるよう洗練化を図る。また衛星観測データのための鉛直局所化の影響調査で得られた結果も統合し、解析精度及び計算コストを考慮に入れ、費用対効果を評価する。さらに予報精度への寄与も評価する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、図書、モニター等消耗品数点を購入予定であったが、既存のもので代用可能であったため、購入を延期した。また、論文出版費を所属チームの他予算で支出した。これにより当初計画からの差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度所要額については、平成29年4月に欧州開催のEGU General Assembly 2017、平成29年9月開催予定のWMO Data Assimilation Symposiumに参加するため海外出張費として使用予定である。また今後出版予定の論文の投稿費及びオープンアクセス化に使用する予定である。 次年度使用額は、次年度以降の海外出張費及び消耗品購入に使用する予定である。
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