2017 Fiscal Year Research-status Report
天然の試料を用いた沈み込み帯浅部におけるマントル対流様式の解明
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16K17820
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
纐纈 佑衣 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (20726385)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スラブ-マントル境界 / 剪断熱 / 剪断応力 / 炭質物ラマン温度計 / 変泥質岩 / 蛇紋岩 / 三波川変成帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は四国中央部三波川帯白髪山地域における浅部スラブ-マントル境界における剪断熱の有無を評価するため、まずは白髪山地域全域で測定された炭質物ラマン温度データをコンパイルし、地質構造や地形の影響を考慮して温度構造を再評価した結果、3つのルートにおいて南から北へ変成度上昇に伴う温度勾配を明らかにした。その上で、白髪山蛇紋岩体東部境界のスラブ-マントル境界近傍で見積もられた温度構造を精査した結果、優位な温度上昇は確認されない、という結果に至った。よって、この地域に露出している過去のスラブ‐マントル境界において、少なくとも最高変成温度に到達したタイミング以降では、剪断熱は炭質物ラマン温度計の検出限界以下(±30度)であったと考えられる。さらにこの結果を基にして熱モデル計算を行うと、浅部スラブ-マントル境界の剪断応力は数十MPa以下である、という結論が導かれた。この結果は、地熱流量や地球物理学的観測結果とモデリングとを組み合わせた先行研究で報告されている剪断応力の値と調和的な結果である。 また、剪断熱の評価はスラブ側の変泥質岩を用いて検討してきたが、平成29年度はマントル側の蛇紋岩にも着目し、赤外分光装置を用いて鉱物種の同定に関する基礎研究を進めることができた。その結果、白髪山蛇紋岩体の蛇紋石はほとんどがアンチゴライトであるのに対し、脈はクリソタイルやリザーダイトが確認された。既に先行研究でラマン分光分析の結果が報告されているが、赤外分光分析による検証は進んでおらず、今後はさらに分析数を増やすことで、蛇紋石の鉱物種を簡易に識別する手法の確立が期待される。また、蛇紋石中の水などの分布を明らかにし、マントル側の情報も増やしてく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は既に簡単な熱モデル計算に着手していたが、その内容を再検討した結果、バックグラウンド温度の検討が不十分であったため、平成29年度は研究対象地域周辺の南北約15km東西約10kmという広範囲の温度データをコンパイルし、白髪山地域の温度構造を明らかにした。その上で再度熱モデル計算を行った結果、白髪山蛇紋岩体東部境界近傍で観測されていた温度上昇は、この地域固有の変成度の上昇に伴う温度上昇と調和的であり、その変成度を上回るような剪断熱は確認できなかった。よって、スラブ-マントル境界における剪断熱は本研究で用いている炭質物ラマン温度計という手法の検出限界以下である、という結論が導かれた。また、この結果から、おおよその剪断応力のオーダー(数十MPa以下)を制約することもできた。この結果は、地質学・岩石学の研究分野のみならず、測地学・地震学の分野の研究者にも興味を持ってらうことができ、研究打ち合わせを行うに至った。また、土木学の研究者からも興味をもってもらい、講演を行った。 また、平成29年度はマントル側に着目する研究も進めることができた。研究室に導入された赤外分光装置を用いて、蛇紋石を分析することによって、簡便に鉱物種が同定できることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度はマントル側の情報を増やすため、赤外分光分析による蛇紋岩の分析を進める。白髪山蛇紋岩体の境界部近傍の蛇紋石と岩体中央部の分析情報から、形成条件の違いが見出せないかを検証する。また異なる地域の蛇紋岩と比較することで、形成温度の違いが赤外スペクトルに現れないかを検証する。その上で、既に得られているスラブ側の温度情報と比較することで、蛇紋岩側から剪断熱に相当する温度異常が見出されないかを検証する。 また、これまでの結果から得られた剪断熱及び剪断応力の見積もり結果を統合し、スラブ-マントル間のカップリング度を評価し、マントルの対流様式について考察する。スラブ-マントル間のカップリング度は新たな熱モデル計算及び及び境界における鉱物の物性値から推察することが可能である。これらの課題を遂行するため、特に蛇紋石の物性に詳しい研究者と研究打ち合わせや情報交換を行うことを予定している。
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Causes of Carryover |
熱モデル計算に用いるために購入予定だったMatlabは、平成29年度の研究内容においてはエクセルで十分計算ができたため、購入を見送った。平成30年度は最終年度で当初より予算配分が少なかったため、繰り越した金額は学会発表のための旅費や論文の英文校閲など成果を発表する目的で有益に使用する予定である。
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