2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K17829
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
堀 真子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (00749963)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 炭酸塩 / 温泉 / 天水曲線 / 希土類元素パターン / 不適合元素 / 下部地殻 |
Outline of Annual Research Achievements |
奈良県入之波温泉を対象に、月1回の定期観測を実施し、温泉水の水素・酸素安定同位体比と溶存無機炭素の炭素同位体比を測定した。これらの同位体比分析は、東京大学大気海洋研究所で行った。また、石灰質堆積物を4月、9月、10月の計3回採集し、高知大学の全国共同利用にて元素マッピングと微量元素分析を実施し、起源の特定を試みた。 温泉水の水素・酸素安定同位体ダイアグラムは、温泉周辺地域での天水曲線とほぼ一致し、天水起源の水が地下で循環して湧出したものであることを示唆した。また、温泉水の溶存無機炭素の炭素安定同位体比は、海洋成炭酸塩に最も合致する値を示した。 堆積物の微量元素分析では、不適合元素とユウロピウムの正の異常が認められた。これらの特徴から、入之波温泉に供給している金属元素は下部地殻を構成する岩石を出発物質としている可能性が明らかとなった。温泉周辺の地質構造は、ジュラ紀の砂岩・頁岩層を主体としており、表層の岩石学的特徴とは一致していないことから、温泉の上昇経路や発生メカニズムについて新たな知見を与えるものである。 鉄質沈殿物の観察では、日周期の縞状構造が認められたが、8月から10月にかけて大規模な鉄質沈殿物が堆積物表面を覆い、連続した日周期パターンを観察することはできなかった。鉄質沈殿物と石灰質堆積物の希土類元素パターンはほぼ同じであり、調査期間において起源物質はほとんど変化していないと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たに導入した手動掘削器と、岩石カッター、および研磨機を用いて、試料の採集から調整までが可能となった。同位体分析と微量元素分析については、共同利用など外部の設備を利用し、整合的な結果を得ることができた。 表層の環境指標としては鉄質沈殿物が形成する日周期の縞状組織に着目したが、観察の結果、1年を通して連続した縞状構造は得られなかった。初年度の分析では温泉水を30倍に希釈したため、イオンクロマトグラフで溶存鉄濃度を検出できなかったので、次年度以降に比色分析を実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
異なる地域の温泉堆積場に研究範囲を拡大し、微量元素濃度と希土類元素パターンを解析して、温泉水の起源と上昇経路を明らかにする。これにより、国内に点在する類似した石灰質の温泉堆積場について、発生メカニズムを明らかにするとともに、地下深部における物質動態が堆積物に記録されている可能性を検証する。 また、鉄質沈殿物については、鉄の酸化過程を検証するため、比色計を新たに導入して分析を実施する。
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Causes of Carryover |
3月中旬に東北大学で実施された研究集会に参加し、研究成果を発表する予定だったが、申請者の母親が急逝したため、研究集会への参加をキャンセルし、キャンセル料のみを請求した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は日本地球化学会年会に参加し、研究成果を公表する。
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